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2019.06.11

学習に関するあまり知られていない重要な論文

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アメリカの学習の専門家であるWill Thalheimer氏は、L&Dの実務家が科学的研究を実際に適用できるよう、わかりやすく「translate」することを得意としている人です。そのThalheimer氏によれば、職場の学習・能力開発にとって非常に重要なある論文が、アメリカの学習業界ではほとんど知られていないそうです。今日は、そのことを嘆きつつその論文の内容を解説するThalheimer氏のブログを紹介します。

 

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L&Dの仕事に役立てる知識を集めるときには、必ず「科学的研究を意識したソースから集める」ようにすることが重要です。

2012年11月に、Association for Psychological Scienceが出版しているピアレビューによる高名な科学誌「Psychological Science in the Public Interest」に、Eduardo Salas、Scott Tannenbaum、Kurt Kraiger、Kimberly Smith-Jentschによるリサーチレビューが掲載されました。このリサーチレビューは、研究内容をレビューするだけでなく、メタ分析の手法を使って複数の調査研究からの知見を抽出しています。つまりこれは、信頼のおける研究ということです。以下にその内容をピックアップします。

 

  • トレーニングや能力開発は、企業の業績に積極的な効果をもたらす

つまり、「トレーニングは利益を生む」のです。

  • トレーニングの設計には、ニーズ分析が欠かせない

研究によると、多くの場合、自分にどのようなトレーニングが必要とされるかを従業員自身が明確にすることは“できません”

  • 必ずしも常に学習が必要とされるわけではなく、必要に応じて調べればよい情報もある

トレーニングニーズを分析し、トレーニングを設計する際には必ず、「知る必要がある」情報と「アクセスできる必要がある」情報を分けて考える必要があります。

  • トレーニング受講者にとって重要でない場合には、トレーニングを行わない

トレーニング受講者に関係のないトレーニングコースを受けさせると、トレーニング全般に対するモチベーションが低下する場合もあります。

  • 単に学習することではなく、トレーニングの転移が重要である

転移を確実なものとするには、効果の実証された、科学的研究に基づく原則に従ってインストラクショナルデザインを行う必要があります。

  • トレーニングを超えたところにまで対応する必要がある

トレーニングで行われることだけが重要なのではなく、トレーニングの前後に行われることにフォーカスすることも同様に重要です。

  • 個人またはチームを対象としてトレーニングを設計する

個人のスキルを構築するだけでなく、チームの能力を向上させる手段としてトレーニングを使うことも可能です。

  • マネジメントやリーダーシップのトレーニングには効果がある

研究では、マネジメントやリーダーシップ開発の取り組みに効果がある証拠が示されています。

  • 忘却を最小限に抑え、記憶をサポートする必要がある

学んだことの忘却を防ぐにはそれを忘れる前にそれを使う機会を設け、頻繁には使わないスキルや知識の場合には、スキルを更新するためのトレーニングを行うと効果があります。

  • トレーニング設計における一般的なミスを避けるべきである

研究によると、学習は練習とフィードバックを通じて促進されます。人の前に立って行う従来型の講義は、新たな知識やスキルを教える方法としては非効率であり、人の興味を引き付けることができません。

  • 効果的なトレーニングには情報、デモ、練習、フィードバックという最低でも4つの要素が必要とされる

非常に効果のあるトレーニングでは、通常よりも多くの練習やフィードバックが取り入れられています。

  • eラーニングも効果的ではあるが、それによって必ずしもトレーニングコストが減るとは限らない

一般的には、eラーニングのほうがコストがかからないと考えられていますが、最近行われた調査によると、「企業全体のトレーニング費用は、トレーニングが対面型からテクノロジーベースの方法に移行しても相対的に変わっていない」とのことです。

  • 適切に設計されたシミュレーションは、学習や練習の効果を高める

適切に作られたシミュレーションによりパフォーマンスが向上し、エラーを最小限にすることができます。特に、危険なタスクをトレーニングする手段として価値があります。

  • 実際の職場での適用を高めるには、トレーニング後のサポートが必要

上司や同僚のサポートなど、トレーニング後の環境が、トレーニングで学んだスキルの適用に対して支援的であることを受講者が意識できるようにすると、そのスキルの練習や維持に大きな効果がもたらされます。

  • コーチングとサポートによってオンザジョブ学習の効果を高めることができる

研究によると、オンザジョブ学習では、チームリーダーがパフォーマンスや学習内容の保持に大きな影響を与えます。だからよりよいコーチになれるよう、リーダーをトレーニングする必要があります。

  • トレーニング受講者の上司が、トレーニングの成功を左右する

企業は、リーダーが、(a) トレーニング受講者に適切なトレーニングを受けさせる (b) トレーニング受講者に期待することを明確にする (c) トレーニング受講者に準備させる (d) 学習を強化する、ための情報を提供する必要があります。受講者がトレーニングを終えたら、上司はトレーニングで学んだことを適用したり、フィードバックを受ける機会を十分に与える必要があります。

  • Kirkpatrickの4つのレベルの評価をベースにしていたのでは不十分

「企業やトレーニング研究者は、トレーニングプログラムを評価するためのフレームワークとして、これまで長いことKirkpatrickの(4つのレベルの)階層に頼ってきた。 … (残念なことに) Kirkpatrickのフレームワークには、多数の理論的および実際的欠陥がある。 このフレームワークは、人間の学習についての40年におよぶ研究とは対極的な、チェックリスト式の評価(例:レベル1と2を測定したのでレベル3を測定する必要があるなど)となっている。この方法は、評価の本来の目的を無視しているので、価値ある情報を利害関係者に提供できない危険がある。… Kirkpatrickの階層には明らかな限界があるが、企業がこれをトレーニングの評価に使用すれば、 同じ業界の他の企業の取り組みと自社の取り組みを比較することができる。」

 

 

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詳しくは、Thalheimer氏のブログや当該の論文をご参照ください。

 

Thalheimer氏のブログ:

https://www.worklearning.com/2014/08/07/recent-research-review-reviewed-and-lamented/

 

その論文:

https://www.psychologicalscience.org/publications/journals/pspi/training-and-development.html

 

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