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2019.08.29

リーダーのための学習科学

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Clark Quinnさんは、学習科学に基づく学習デザインの必要性を古くから主張している人です。今日は、認知科学について詳しく勉強している暇のないリーダー向けに、Quinnさんがその概要を解説した記事を紹介します。

 

学習のプロフェッショナルには、学習の仕組みについて知り(人がどのように学ぶか)、学習科学について得られた知見に基づいて判断することが期待されます。しかし実際には、学習科学の知識はまだ十分に普及していないので、ここではその概要を簡単に紹介します(ただしこれだけでは不十分)。

 

脳の下位レベルの仕組み

脳はニューロンのネットワークで構成されており、このネットワークが活性化するパターンが思考であるといえます。学習とは、このようなパターン間のリンクを強化することです。しかし、学習の場面で重要なのは、個々のニューロンではなく、このようなパターンを生じさせる言葉やイメージ、つまり神経レベルよりも上の、「認知レベル」の活動です。世間によくある「ニューロ~」に基づく学習プログラムという宣伝は、マーケティング上の理由によるものであり、実際には認知レベルのことを言っています。

情報の保存

認知科学の理論では、感覚記憶、作業記憶、長期記憶という3つのストレージで構成されるものとして脳をモデル化します。このようなストレージの特性や、それらの間のやり取りは、学習についての理解の基盤となります。

情報は、感覚器官から感覚記憶に入ります。感覚記憶にある情報のうち、注意が払われたものは、作業記憶に起動します。

作業記憶は、人の意識的思考です。その容量は小さく、4つ程度の「チャンク」しか保存できません。学習によって、より複雑なチャンクが作られ、より複雑な処理や思考が可能になります。役に立つチャンクを作ることは、学習の主要な目的のひとつです。

長期記憶は、人が学んだことが保存される場所です。このとき情報は、単に保存されるのではなく、その意味に従って保存されます。長期記憶に保存された知識は、意識的処理を必要としない自動化されたアクションを引き起こすことができます。

プロセスと処理

注意とは、感覚記憶から作業記憶に情報を移動させるプロセスのことです。作業記憶の容量は限られているので、注意は、それを絞り込む役割を果たします。学習を促進するには、気の散る要素を取り除き、注目すべき部分に注意を向けるよう支援が必要です。

情報を長期記憶に移動させるには、精緻化(elaboration)が必要です。これには、自分がすでに知っていること(既存知識)に新たな情報を関連付ける必要があります。

学習の目的は、タスクの一部を無意識的に行い、重要なことを意識的に考えるために作業記憶を使えるようにすることです。

効果的な学習方法

学習を成功させる要因としては、分散効果、モデル化、例の使用などがあります。間違えることは、学習にとってのチャンスです。

いったん学んだことを思い出す練習(想起練習)など、学習には練習が欠かせません。神経ネットワークの強化は一日では生じないので、時間をおいて練習を繰り返す必要があります。

人が何かについて理解するときには、それがどのように機能するかについてのモデルを必要とします。物事の根底にある原則を抽出できるようにするには、それに関連する概念をさまざまな方法で示す必要があります。

リーダーに必要とされる知識

リーダーは、学習スタイル、金魚のように短い注意の持続力、ニューロなんとか、ブレインなんとかといった、誤った考え方に振り回されるのではなく、学習の仕組みを理解し、正しいアプローチに投資する必要があります。

 

元の記事:

https://learningsolutionsmag.com/articles/quinnsights-learning-science-for-leaders

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Clark Quinn氏による他の記事:

https://www.ipii.co.jp/archives/tag_blog/clark-quinn/

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