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2020.05.13

学習に神経科学を濫用するのはやめましょう!

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これまでにもいくつかのブログを紹介してきたPaul Kirschner氏は、学習科学の研究者であり、職場の学習の専門家であるMirjam Neelen氏と共同で3 Star Learningという学習に関するブログを執筆しています。今日はこのサイトに公開されていた学習と神経科学に関する記事を紹介します。

 

最近では、「神経科学」という言葉が学習の分野でも頻繁にみられるようになっており、「神経科学的エビデンスに基づく」学習を主張する記事やブログが世の中に溢れています。効果的な学習方法として知られる分散学習や、思い出すことによる練習などは、認知科学から得られたエビデンスです。しかしこうしたことが「神経科学」という言葉を使って宣伝されています。これはおそらく、「神経科学」という言葉を使った方が魅力的に響くからです。

実際のところは、神経科学は、脳のメカニズムや脳それ自体を研究対象としています。これにはしばしば、脳が活動しているときの血流の変化を画像化するための装置であるfMRI(functional magnetic resonance imaging)が使われます。しかしこの装置による脳の画像化テクニックは、具体的な学習の方法そのものに役立つわけではありません。せいぜい、その根底にあるプロセスを理解するのに役立つのみです。このテクニックを使って学習を説明しようとすることは、まだ時期尚早であり、それに基づいて教え方に関して何かを主張することはできません。

学習の分野では、fMRI画像が誤った方法で解釈され、広められている例が多数あります。その結果、学習に関する認知神経科学の知見が誤って解釈され、広まるという問題が生じています。

神経科学の濫用例:ドーパミン

「ドーパミンによってモチベーションが高まり、学習者の注意力が高まり、学習に熱中するようになる」という、よくある主張は誤りです。

ドーパミンは、まだ完全には理解されていない神経伝達物質です。これが、運動調整や筋肉の緊張に関与していることはすでに分かっていますが、ドーパミンがたくさんあればモチベーションが高まるという考えは、単なる誤りです。これは過度の一般化であり、誤りです。

これは、何かを科学的に聞こえるようにするためにドーパミンという言葉を使っている例ですが、実際には科学的でも何でもありません。神経科学はこのように濫用されているのです。

神経科学はどのようにして学習に役立つのか

今のところ、神経科学から教育やトレーニングに実装できることはほとんどありません。神経科学は、特定のプロセスの一部に関して、一つのレベルで説明を与えることができるかもしれませんが、職場や学校で行われる学習は複雑であり、神経科学の実験は、人がよりよく学ぶ方法に関して答えを与えてくれるレベルには達していません。

しかしこのことは、神経科学が学習の分野で全く役に立たないということではありません。その生物学的説明が情報として役立つ場合もあります。このような情報が、行動とコンテキストの関連性を理解するのに役立つ場合もあります。それに基づいて仮説を立て、学習の状況でテストしてみることも可能です。

学習の専門家は、神経科学を濫用してはなりませんが、この分野の発展をフォローしていく必要はあります。

 

元の記事:

https://3starlearningexperiences.wordpress.com/2020/03/03/stop-abusing-neuroscience-for-learning/

 

 

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