コラム

ASTD ICE2012 セッション(浦山昌志)③

日本人同士でセッションの情報交換 『キーワードは“情熱”、“共感”』

ICE名物である「グローバルビレッジ」。日本の旗が掲げられた下には、ASTDグローバルネットワークジャパン会長の中原孝子氏を中心に、日本人のICE参加者が集まり、自主的に各自のフィードバックを聞くセッションを持った。同じセッションであっても感じ方も違い、互いのフィードバックでより一層学びを深められた。

最も強く感じたことは、これからは経済や資本力といった「力」による支配ではなく、何かをしたい、実現したいという強い気持ちを経営者が持ち、その「エネルギー」や「情熱」が人々を引っ張っていく時代になる、ということだ。これまではダイバーシティという言葉に代表されるように「違いを理解し、認め合う」ことがグローバル化のポイントであると言われてきたが、それだけではリードしていくことはできない。これからは「違い」ではなく、「共通する部分」を見つけて共有、共感すること、つまり、異国で働く人々の心の部分に「情熱」を持って働きかけることがビジネスを成功させるために最も大切なことになっていく。その情熱による一体感醸成のために、テクノロジーは重要な役割を果たすようになる。その意味で、本当のグローバル化はこれからだ。皆がスタートラインに立っているといえる。

下記は、振り返りセッションで語られたキーワードをカテゴリー別に整理した。一つ一つの言葉に話し手の感動が込められており、言葉の宝箱のようだ。皆さんの何かのヒントになれば幸いである。

 
<リーダーシップについてのキーワード>
・リーダーシップにトレンドはない。いかに人々にエネルギーを与えるか(energize)だ
・リーダーシップは心から始める(Start from heart!)
・グローバルリーダーシップに求められるものは何か。
「Doing、How?」 から 「Being」 へ
すなわちあなたのパーソナリティ、ユニークさはどんなもので、それらを強みに変えていくこと。パッション、エナジーが大切
・「アジリティリーダーシップ」
リーダーには深く極める人と広くカバーする2種類がいる。いずれも新しい変化に素早く対応できることが大切。そのためには、人材を見極め、育て、経験させることが重要である。
・ミレニアム世代をどうリードしていくかという課題を強く認識している。
・知恵を集められる人間性。
・ケン・ブランチャード:レジリエンス(精神的回復力と危機耐性)が大切。
安定(Stable) -> レジリエンス(Resilience) ->危機(Crisis)-> カオス(Chaos)-> 新しい方向性(New Direction)
このレジリエンスのために大切なことは、
 ①ネットワーク ②自分を信頼する ③新しい方向性を見つける ④健康管理
・ディズニーのリーダーシップについて
「リーダーは周りの人たちに変化を与える人である」
 ①エンビジョン(ビジョンを与える) ②オーガナイズ ③エンゲージ ④コミット

 
<グローバルについてのキーワード>
・ダイバーシティで働くとき、国と国の違いに目を向けるのではなく(文化の違い)、同じことは何かを見つける。(人間としての共通点を見つけることから)
・グローバルプロジェクトのときに、マネージャとしては言葉(言語)ではなく、人格、エネルギー、アドバイスすることなどを大切にする。Beingに着目しながらメンバーと接すること。
・サムソンはHRDだけでなく全組織から参加していて、本日中に報告書を提出しなければならない。そして来週にはその採択が決まって実行に移すというスピード感。

 
<トレーニングについてのキーワード>
・研修の価値をどう測るか?(ROE)
 結果⇒行動⇒学び⇒反応 のように逆にアプローチして考える。
・トレーナーとしてのブランドを高める方法として

・皆で音楽を演奏するオーケストラとチームビルディングは似ている。指揮者とリーダーの類似性を提示。
 ①コンダクター ②コラボレーション ③インプロビゼーション
・心を教えること。積極的な、戦略的な謙虚さが重要。
・欠点を直したほうがよいというより、良いところを見つける態度、どのように強みを見つけるかが大切である。
・自分自身に正直でありなさい。
・いつも自分に問いなさい。(質問をなげかける)
・リスクの取り方を考えて人材開発を考える。
・HRDは学んでもらうためにどうしたらいいかを必死に考えている。
・経験から学ぶことの大切さ。自分の人生を横に置いてどう感じるかを問うこと。
・機会は誰にでもあるということ。それに気がつくことが大切である。

 
<テクノロジーについてのキーワード>
・テクノロジーにより一体感をつくるのが大切なテーマとなっている。
・ボーイング787の技術。難しくなればなるほどエンジニアリングの要素からコラボレーションの部分にフォーカスが置かれる。(優位性は個別要素の優秀さではなくそれらがつながってコラボレーションすること)

 
<トレンドについてのキーワード>
・特にセールス活動についてテーマになっていると感じる。またエンゲージメント度合いを測定することがトレンドになってきている。
・シャラーンというゲーム会社では、ゲーマの人たちは98%のリテンションがある。ゲーム感覚で仕事をすることが大切。
・ビジョンなど人間臭さがだいぶフォーカスされてきた。
・5-6年前はクウェートなどHPIを理解していなかったが今は実践フェーズに。
・パフォーマンスという枠がなくなった。全カテゴリーに入り込んだのではないか?
・会社のWayを変容させるには
①人を尊敬する ②会社のブランドを尊敬する ③ストレスを感じたら尊敬する
これにより信頼が生まれ、エンゲージメントにつながる

 
ASTD今後の動向

ASTDグローバルネットワークジャパン(GNJ)のメンバーとして、各国の代表が集まるセッションにIPイノベーションズ代表の浦山が参加した。この中ではASTDの活動に関して基本的なことから最近の新しい動きなどが紹介された。また、日本は会員増加に関して世界的にも優秀な成績を収めたとのことで表彰された。

1.ASTDの新たな試みについての紹介
①Watch&Learn のWebcast ・・会員向けにT&Dマガジン等の情報をビデオ配信。
Watch & Learn Webcasts(http://www.astd.org/Digital-Resources/Webcasts/TD)
※別ウィンドウで開きます。

そのほか双方向の情報共有や広報活動はSNSを通じて活発に展開している。
②Linked IN  ③facebook

2.日本で成功した会員集客キャンペーンの紹介
日本においては、プロモーションにより世界で最も多くのメンバーを期間中に集めることができたため、他の国からの注目を浴びた。

3.ASAP conference、TechKnowledgeについての紹介
ASTDは、2011年シンガポールでのアジア開催が成功に終わり、2012年も続けて開催されることが紹介された。2012年1月に行われたTechKnowledgeについても報告があり、日本からはIPイノベーションズが参加したと国際マネージャWang Wei氏からコメントされた。

4.ICEの参加者人数が回復している報告
リーマンショックなどで一旦減少していたカンファレンスの参加人数が回復に転じていると報告された。ASTD本部の海外への働きかけが功を奏して、特に米国以外からのインターナショナルの参加者が増加している。

5.ASTDパートナーシップの種類と内容の紹介
ASTDとのパートナーシップには各種タイプがあり、それぞれの特徴が紹介された。
①Distributers
②Project Partner・・Delegation,Conference,Event Marketing
③International Partner Program (日本はこのタイプで運営されている)

6.各分野におけるASTDコミュニティ活動推進状況についての報告
ASTD Community of practice 
・Sales Enablement
・Learning Technology
・Senior Leaders and Executive

浦山昌志(うらやま・まさし)

株式会社IPイノベーションズ 代表取締役
ASTDグローバルネットワークジャパン 理事/事務局長

1957年長崎県生まれ
松下電器の無線研究所でビデオ機器の制御技術開発に従事。その後、日本理工医学研究所に所属し、通産省電子技術総合研究所に出向。ノーベル賞候補者であった故松本元博士に師事し、神経研究をサポートした経験を持つ。1990年株式会社CSK入社後は、教育事業部にて人材育成に関わる。各種ITトレーニングやeラーニングの開発、LMSの導入、運用サービスを提供。日本で最初にシスコ認定教育をスタートした他、LMSやeラーニングの導入に関しても先進的な事例で市場開拓を行った。ASTD(American Society for Training and Development)の知見を生かし新しいアプローチの人材育成、組織開発を推進している。システム監査士、中小企業診断士の資格も所有。座右の銘は、「探検し、夢を見、発見せよ!」