コラム

ASTD TechKnowledge2012 全体概要

世界最大級の人材開発関係者の団体であるASTDが毎年主催し、人材育成や教育に関する、最新の情報や人が集結する「ASTD TechKnowledge」。今年は1月25日~27日の3日間、米国ネバダ州ラスベガス「RIO ALL-SUITE HOTEL & CASINO」にて開催された。教育業界における著名人を招いての基調講演やあまたのセッションなど充実した内容は、「ASTD TechKnowledge」ならではのもの。

2012年の今年、代表取締役浦山をはじめ、ラーニングパフォーマンス事業部栗原、大戸、田辺の計4名が参加した。

単なる話し手と聞き手に終わりがちなイベントではなく、講演者と参加者が渾然一体となった白熱的なイベントのレポートをお届けしよう。

ASTD TechKnowledge2012 全体概要

2012年1月25日~27日にかけて、ラスベガスで開催されたASTD TechKnowledge2012。
期間中、時流の最先端を行く著名人による3つの基調講演や90を超えるセッション、70社以上が出展したエキスポが催された。会期中、朝7時から始まる参加者同士の朝食会でスタートした会場は、eラーニングに関する最先端のテクノロジーやツールの情報と、ラーニングにかける人々の熱気で包まれた。学びのエネルギーに満ちた3日間をご紹介しよう。

専用アプリで快適な参加環境が実現

全世界から参加者が集まるカンファレンスということで、相互のコミュニケーションを取りやすくするための食事会やディスカッションの場など、運営にはさまざまな工夫が用意されていた。

開催前、サイト上でセッションのマテリアルを参照することができ、参加スケジュールは自分で自在に組むことができた。カンファレンス初日には、初めて参加する人たちのためのセッションが開催され、カンファレンスでの過ごしかたや用意されている企画、ツール類などの紹介があり、参加者に対する歓迎の意思表示が全面に感じられる内容であった。

会場内はWifi環境が整備され、快適であったことは言うまでもないが、特筆すべきは、カンファレンス専用のモバイルアプリが提供されていたこと。スマートフォンやタブレットにそのアプリをインストールすれば、開催セッションや場所、スケジュールといった情報を移動しながら確認できるだけでなく、アンケートへの回答や各スピーカーへのアクセス(メールやTwitterなど)もできるようになっていた。

学びを支援する仕掛けがあちこちに

カンファレンス開催中における参加者同士のコミュニケーションを推進する仕掛けも秀逸であった。無料の朝食会会場では、参加者が同席しあうため、必然的に会話がしやすい状況がつくられていた。

同会場は日中、休憩スペースとなっており、セッションが早く終わった人や参加しなかった人が集まる場所となっていて、時折、公開ディスカッションが実施され、人を集客。行われたディスカッションはチャットで公開するなど、リアルとネットがバランスよく融合されていた。会場では書籍販売も行われていたが、著者のサイン会が同時に開催されていたのは心にくい配慮というべきであろう。

トレンドのキーワードは「Gamification」

今年のメインテーマは「LEARNING TECHNOLOGY APPLIED」。すでにいろいろな場面でラーニングテクノロジーが応用されている、というメッセージになるだろうか。キーワードとしては、Gamification、Power of Collaboration、M-Learning(スマートフォン・タブレット等のモバイルデバイスによるラーニング環境の提供形態全般)、Rewarding、Short Span Feedbackなどがあったが、とりわけ「Gamification」に対しての注目度は高く、基調講演も含めいろいろなところで議論が交わされていた。

「Gamification」における目的やゴールの明確化とストーリー化、ゴールさせるための適度な緊張感と負荷、報酬・満足感の提供、リアルタイムフィードバックなど、ゲームの方法論・手法を人材育成に応用するためのヒント・事例が非常に興味深く印象に残っている。

さらには、ソーシャルゲームにおける連携のパワーやARG(Alternative Reality Game)・シリアスゲームの紹介など、ラーニングの分野において、かつてない「変革の機会」が訪れていることが感じられた。

また、「年代別(GenB、GenX、GenY)の考え方やラーニング特性に合わせて、eラーニング自体も最適化していく必要がある」というメッセージも、カンファレンス全体を通じて発信されていた。

入退出自由なカンファレンス

基調講演を含めて、複数の会場でセッションを同時に開催するスタイルのカンファレンスは、日本と違って事前の登録は必要なく、興味のあるセッションがあれば参加することができ、かつ、入退室も自由であった。3日間で90ものセッションが開催されるため、物理的にすべてのセッションに参加できるわけもなく、このようなスタイルは合理的かつ効率的と思われた。またセッション途中でも臆せずに、質問や意見などを自由に発言し議論する場が多く見られ、国民性や文化の差を強く感じた一面も…。

なお、セッション時のみならず休憩中の会話からも、講師やコンサルタント、コンテンツ開発者が発表されている各理論をきちんと理解していることや、社内講師がライブ、コンテンツも含めた形でラーニング全体の研修企画に取り組んでいる人が多い印象を受けた。

実践につながるセッション内容

セッションは、以下の5つのトラックにカテゴライズされていた。

・E-Learning Design
・Implementation Strategies
・Platforms & Authoring Tools
・Emerging Technologies
・Virtual Delivery & Facilitation

全体としては、eラーニング関連の最新技術や事例、ツールを紹介するセッション、導入・運用に関する考え方や戦略を説明するセッション、実際の操作方法・テクニックなどをワークショップ形式で体験するセッションに分類されていたが、決してテクニカルな内容だけに留まらず、テクノロジーや理論を活用するためのポイントやヒントなども交えた、実践的な内容になっていた。

たとえば、人材育成に関して、テクノロジーをどのように活用していくのか、どのような理論を適用していくのかなどを紹介しているケースが多く見られた。さらに、それを検討するシーンはさまざまで、育成全体のしくみを考えるフェーズや、個々の講義及びコンテンツを設計するフェーズで見受けることができた。双方でうまく連携されている事例などもあり、そのような取り組みにはかなり触発された。

また、「TechKnowledge」という名称にふさわしく、社内eラーニング製作を主業務とする人向けに、ナレーション付きのeラーニングを作成する際のマイクの特性や使い方を細かく実演するものや、LMSを使わずにSCORMコンテンツを配信するソリューションなど、最新技術動向や制作テクニックなどを取り上げたセッションも数多くあった。

なお、各セッションのマテリアルは開催後も参照することができ、振り返りの際に役立った。驚いたのはほとんどのセッションが録画され、公開されていたことである。それぞれのプレゼンテーション画面やプレゼン内容が改めて確認できるのは、受講後、理解を深めるのに非常に効果的であった。

レポート報告:
栗原良太:ラーニングパフォーマンス事業部1部 部長
大戸 寛:ラーニングパフォーマンス事業部3部 部長
田辺健彦:ラーニングパフォーマンス事業部 シニアマネジャー