コラム

ASTD TechKnowledge2013 セッション(大戸寛)

「TH102 – What is Tin Can and Why Should I Care?」
スピーカー:David Kelly (Center for Learning ACLD社)、Kevin Thorn(NuggetHead Studioz社)

「TH202 – Tin Can Case Studies for a Brave New World」
スピーカー:Aaron Silvers(Advanced Distributed Learning :ADL)、Mike Rustici(Rustici Software社)

次世代SCORMとして注目を浴びるTin Can APIとは何か

この2つのセッションは、タイトルにもあるように「Tin Can(ティン・カン)」をテーマにしている。「Tin Can」という言葉はまだ日本ではなじみが少ないと思うが、次世代のSCORM(Sharable Content Object Reference Model:共有可能なコンテンツオブジェクト参照モデル)規格として米国では注目を集めている。

Tin Can とは、正式には「Tin Can API」といい、ADL社が中心となって進めているオープンソーステクノロジーで、学習アクティビティと学習体験の記録を関連付ける方法にフォーカスしている。ADL社がSCORMから「Tin Can API」への発展させる背景として、下記のことを挙げている。

●SNSなどオンラインコミュニティが発展している
●検索エンジンを活用して自律的学習が行われはじめている
●ネットワークやコミュニティにパフォーマンスサポート機能を求める人たちの間で、非公式なソーシャルラーニングが行われる始めている
●上記の多くが、デスクトップのWebブラウザーにはないツールやデバイスを使って行われるケースが増えている

上記のような活動には、SCORMでは対応できない。そこで、新たなプロジェクトが開始された。

Tin Can APIはオープンソースのAPIであり、データ形式としてJavaScript Object Notationを使用する Representational State Transfer(REST) Webサービスである。 このWebサービスにより、ソフトウェアクライアントが「ステートメント」オブジェクトの形式で経験データを読み書きできる。 最も単純な形式のステートメントは、「私がこれを行った(I did this)」。より一般化すると「動作主(actor)、動作(verb)、対象(object)」という形式となっているが、これよりも複雑なステートメント形式を使用することが可能だ。

「Tin Can API」を利用するとあらゆるデバイス上での活動経験を一つの場所「LRS(正式名称は?)」に格納することができる。LRSとは基本的に、Tin Can APIのアクティビティステートメントを保存するデータベースで、場合によっては、LRSはLMS(Learning Management Sysytem:eラーニングの実施に必要な学習管理システム)のアップグレードとして提供される可能性や、既存のLMSの追加機能となる(bolt-on)可能性もある。

VANDERBILT大学のメディカルセンターでは「Tin Can API」をすでに導入しており、複数のLMSの履歴と、それ以外のインフォーマルラーニングや集合研修やメディカルシミュレーションの経験をすべてLRSに入れているという。

米国ではすでに「Tin Can API」に対応したオーサリングツールやLMSも多数あり、広がりつつあるようだ。今後の動向に注目したい。

「TH300 – Brain and Memory」
スピーカー:Art Kohn(AKLearning社)

記憶力を身につけるためのコツ

 立ち見も含めると定員数の1.5倍ほどの観客を集めた非常に盛り上がったセッションで、実体験を交えながら説明は進められた。
ポイントは、以下の通りである。
●Memory is Constructive
●Memory limits can be expanded
●Memory can be unlimited
●Memory is Emotional
●Levels of Processing Affects Memory

この中の「Memory is Constructive」について紹介しよう。
まず下記の文字を15秒見て、記憶できるか試してほしい。

この文字列を短時間で記憶するのは確かに難しい。そこで彼が提示した言葉が下記である。

色分けされたアルファベットはご覧のように確かに意味のある文字列だ。一見意味のない情報でも頭の中で識別しやすいように区分け(変換)することにより記憶に残ることを明らかにした。

他のポイントも同じように例を挙げて説明していき、観客は実体験することにより、うなずきながら、このセッションを最後まで聞いていたのが印象的だった。

 
「TH403 – Delivering Customized Learning with NikeU’s Open-Source, Learner-Driven LMS」
スピーカー:Chris Rosso(NIKE社)

ナイキの独自LMS環境構築事例

ナイキが社内用LMSとしてパッケージ製品から独自のLMS(Learning Management System)環境を構築した事例が紹介された。
ナイキでは自社LMS環境を下記のようなレイヤーで構築したとのことである。

日本でもMOODLEを使用した構築例は珍しくなくなっているが、今回の事例では各モジュールを使用して機能を切り分けている点が特徴的であった。上位レイヤーまで適用した画面を見ると、ナイキらしく、かなりデザインにはこだわっていることがわかる。コンテンツに関しても静止画テキストベースのものは、多言語対応している。

大戸寛(おおと・ひろし)

株式会社IPイノベーションズ ラーニングパフォーマンス事業部3部 部長ASTDグローバルネットワークジャパン会員、SCORM技術者

1990年代中頃より人材育成の世界に入り、研修企画・実施・マネージメント業務に携わる。2004年IPイノベーションズ入社。主にeラーニングやLMSなど、ラーニングテクノロジー業務に従事。垣根を越えた新しい教育を作りたい!座右の銘は「何事もバランスよく考える」