ASTD Tech Knowledge 2012
ICE

2012.05

ASTD ICE2012 セッション(田辺健彦)

セッション

「W221 Mobile Learning is SO 10 Minutes Ago… Mobile Performance is Now!」
スピーカー:Richard Mesch

モバイルが業務支援の「魔法のランプに」になる日

「モバイルデバイスは学習のためでだけはなく、パフォーマンスサポートのために使用しよう」というテーマで進行していた。パフォーマンスサポートとは、組織や従業員の業務におけるパフォーマンスを支援する仕組みという意味で、業務に役立つ知識を獲得しながら、業務の効率を高めよるということだ。今は、次々に新しい情報や知識を得ていかないとイノベーションすることができないからだ。
現状を見てみよう。25-34歳の人たちが1つの職場に留まっている平均期間は3.1年に過ぎず、短期間に沢山の知識を学習していかなければならない。しかしながら、実際に業務で必要な知識は10%にすぎない、という面白いデータがある。カーネギーメロン大学によると、業務を行うために覚えていなければならない知識の割合は、1986年時点では、75%、1997年では、15~20%、2008年では、8~10%と年々少なくなってきている。
現在行われている、多くのトレーニング、特にeラーニングはただ実施するだけになってしまっているのだ。実施するだけのトレーニングであれば、その後ほとんど忘れてしまう。「人間は忘れる動物である。学んだ9時間後には、その60%を忘れてしまう」のである。
この忘れやすい人間をサポートする仕組みが、モバイルラーニングである。モバイルデバイスは、エキスパートの詰まったビンである。必要なときに欲しい情報を得ることができる「魔法のランプ」のようなものである。モバイルデバイスを活用して業務を行うことにより、コンテキスト(現場におけるプロセス、実務上の知識・Tips、構造化できない経験)に沿った学びが可能となる。

モバイルデバイスによるパフォーマンスサポートの活用例として紹介されたものをワンポイントで解説しよう。
①AR(拡張現実)を使ったジョブエイド
ARを使った業務支援の例として、インタラクティブな仮想試着室や、整備情報をARで表示させながら行う自動車整備作業が発表された。

②バーチャルメンタリングシステム
アメリカの製薬会社で、従業員同士でメンターを探すためのWebツールを開発した事例。
ツールの利用率は2010年に9%伸び、2,500を超える付加的なメンタリング・パートナーシップが生まれた。

③ビデオを使ったモバイルコーチング
イギリスの携帯電話会社が、トレーニング後のフォローや強化を、モバイルデバイス経由のビデオコンテンツで実施した際の事例。
15秒から5分程度のテーマに基づいたビデオを、全てのセールスリーダーのモバイルデバイスにインストールして運用。

④マイクロブログによる情報公開・共有
アメリカの総合病院におけるマイクロブログでの情報共有に関する事例。
5万人超の医療関係者のみならず、患者、健康に不安を抱える人、他の医療機関とも情報共有を行っており、素早く的確かつ適切な情報共有を行うことで、非常に好評価を得ている。

日本においても、ノートPCやフィーチャーフォンを使用した業務支援の仕組みはあったにはあったが、ネットワークやテクノロジーなどの環境が追い付かなかったため、活用された例は少なかった。
しかし、今日の各種インフラの整備やテクノロジーの発達、何よりモバイルデバイスの急激な普及と標準化により、モバイルデバイスによるパフォーマンスサポートは現実的、かつ日常的なものとなった。
難しいことなど微塵も考えずに、モバイルデバイスを手足のように使いこなしている若い世代が社会の一員として登場してくる近い将来、各企業・組織はイノベーションを起こすパフォーマンスサポートを実現するためのチャレンジを、常に実施していかなければならないだろう。

田辺健彦(たなべ・たけひこ)

株式会社IPイノベーションズ ラーニングパフォーマンス事業部 シニアマネージャー
ASTDグローバルネットワークジャパン 広報委員

1963年新潟生まれ
音楽・ゲーム制作を経てIT教育に携わり教育業界へと転身。日本におけるe-Learningの黎明期からエバンジェリストとしてさまざまなオンライントレーニングを提供。IPイノベーションズでは、「何でも屋」として奔走の日々を過ごしている。座右の銘は「日々是勉強」。