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2024.05.10

IPIニュースレターvol.11:多くの人が気づいていない人材育成における生成AIの有望な活用領域とは?(2024/05/10)

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IPIニュースレターvol.11:多くの人が気づいていない人材育成における生成AIの有望な活用領域とは?

プロンプトに基づいて巧みに生成される動画など、生成AIの進歩には目を見張るものがあります。その一部は過大宣伝であると言われてはいますが、時間とともに誇張なしに実現されていくと思われます。動画や画像、文章、Webページやアプリの自動作成など、生成AIに関しては一般に、そのコンテンツ作成能力に関心が向けられがちです。しかしAIは、コンテンツ作成以外にも私たちの仕事の効率性、有効性を高めるポテンシャルを秘めています。人材開発の分野においても同様です。

今回は、この学習・人材開発(L&D)への生成AIの適用可能性に関するレポートを紹介します。

 

■学習・人材開発(L&D)へのAIの導入状況に関する調査レポート:『AI in L&D: From talk to action』by Donald H Taylor and Egle Vinauskaite

この2024年3月~4月はじめにDonald Taylor氏らが行った最新の調査によれば、前回調査時(2023年11月、このニュースレターでも紹介)に比べ、L&D業務へのAIの活用が進展している様子がうかがえます。前回調査と同様、AI導入の中心はコンテンツ作成や業務効率化(文書作成や学習デザインなど)です。

AIに期待する機能として前回挙げられていたパーソナライズ/アダプティブラーニングに関しては、期待されているほど進んでいません。アダプティブラーニングは技術的難しさだけでなく、学習者のプライバシーやセキュリティの問題も伴うので、コンテンツ作成など、比較的実行が簡単で時間短縮につながる部分からまずAI導入がすすめられているようです。他に、AIコーチングなどスキル練習のためのAI活用もはじまっています。

L&Dで見落とされているAIのポテンシャル:

  • AIによる分析

AIは分析能力に優れています。それをL&Dに積極的に取り入れれば、従業員の学習ニーズや将来的に必要とされるスキル要件をより正確に分析・予測し、分析に基づくトレーニングや配置転換を行ったり、キャリアプランや採用計画を立てることなどができます。組織内の人のつながりを分析したり、組織内にある暗黙知を捉えて共有することも可能になります。

既存のコースやドキュメントに基づく効率的なコンテンツ作成だけでなく、データ分析や学習者の調査に基づいて、より効果的なコンテンツ開発を行うことができます。しかし多くの企業では、このポテンシャルをまだ完全に活用しきれていません。

 

  • パフォーマンスサポート

パフォーマンスサポートとは、従業員が業務に必要な知識を提供するにあたって研修コースを作るのではなく、仕事の流れの中で個々人に必要とされるリソースを必要とされるタイミングで使えるようにすることです(たとえば作業中に参照できるリファレンス)。これにより、L&D業務の有効性、効率性に大きなインパクトを与えることができますが、その導入が望まれている一方で実現が遅れている部分でもあります。既存データから生成できるリソースだけでなく、AIアシスタントなど、企業の既存データに基づいて業務に関する質問に適時に回答する機能や、Microsoft Copilotのように既存アプリケーションの機能を補うタイプのツールもパフォーマンスサポートに含まれます。

 

このレポートの著者らによれば、AIは、人材育成の効果、効率を高める強力なツールとなりえます。単なるコンテンツ作成や目先の仕事の効率化を超えてAIを活用するには、L&D部門がまずこのテクノロジーを理解し、組織全体と密接に連携してビジネス戦略に基づいた有効なデータ活用や分析のための試行錯誤が必要とされます。かつての電気がそうであったように、生成AIは、時間をかけて次第に社会に浸透していく基盤的テクノロジーであるとのことです。

 

以下にこのレポートに掲載されていた事例の一つを紹介します。これは、コンテンツ生成やスキル練習ツールの開発ではない唯一の事例です。

 

事例の紹介:NORSK HYDRO社のスキルマネジメントソリューション

NORSK HYDRO社では、スキルギャップや、スキル開発機会の不足という問題が認識されており、生成AIを活用したスキルマネジメントソリューションが開発されました。これは、生成AIとサードパーティツールを組み合わせ、従業員の現在のスキル、将来的に必要とされるスキルの予測に基づき、必要とされる学習を推奨するソリューションです。

この取り組みはまだパイロット段階にあり、AI出力の信頼性の問題などがあるものの、次のステップとしては、個々の従業員のキャリア開発ゴールに基づくラーニングパスを作成できるようになることを目指しているとのことです。

 

このほか、この調査レポートでは、回答に含まれていた生成AIの画期的な使い方や、上記を含む7つの会社の事例も紹介されています。