
David Game Collegeは、少人数制のクラスと個別指導を重視し、公にも高く評価されているイギリスの私立学校です。このDavid Game Collegeではこの9月から、 人間の教師ではなくAIを使った授業の試みが実際に行われており、多くの論議を引き起こしているそうです。
この試みでは、人間の教師が教室の前に立って授業するのではなく、高度なAIプラットフォームとVRを使って、AIが一人ひとりの生徒に最適化された個別の教育を提供します。
このAIを使った教育の具体的な方法
このプログラムでは、AIが各生徒の強みと弱みを分析し、それに応じて個別最適化された学習体験を提供します。授業自体は完全にAIを使って生徒が自分のペースで行い、それ以外の部分、たとえば対話や感情面でのサポート、人間的なつながりの確保は、人間の学習コーチが担当します。このプログラムは中等教育レベルのものであり、数学、英語、生物、化学、物理といった基礎科目のほか、地理、歴史、コンピュータサイエンスなどの選択科目もあります。生徒はVRヘッドセットや高度なAIプラットフォームを使い、自分のペースで学習を進めます。AIは生徒が得意な科目は速いペースで行い、苦手な科目には追加のサポートを提供します。このAIによるサポートは24時間365日どこでも利用可能であり、学習者は時間や場所にとらわれずに学ぶことができます。
このプログラムの参加者は20人であり、これらの生徒に対して「人間の学習コーチ」が3名配置されます(学習コーチは教師ではなく、教育学や学習支援に関する専門知識を持つトレーニングを受けたファシリテーター)。学習コーチは、AIの補佐役として行動の監督やサポートを提供するほか、人間同士の交流も促します。
このプログラムのこれまでの成果として、生徒たちは苦手な分野に重点的に取り組むことで、短期間で成績向上を見せており、学習に対する自己効力感も向上しているとのことです。
この教育モデルの学術的根拠
このAIによる教育モデルは、教育研究者のブルーム(Bloom)が提唱した「習得までの時間(Time to Competence)」という概念にも根ざしているそうです( 参考記事)。これは、学習の進行速度は個々の生徒によって異なるので、十分な時間が与えられればすべての生徒がやがて知識やスキルを習得できるようになるという考え方であり、AIを活用した個別教育を推進しようという根拠の一つにもなっています。
批判と懸念
この教育モデルに対しては、AIに依存しすぎることで学習が非人間的になり、対人スキルの育成が阻害されるのではないかという批判があります。しかし人間の学習コーチを配置し、小人数での対話やディベートの機会を設けることで、感情知性や対人スキルの育成にも取り組んでいます。
またAIは、単なる知識の伝授だけではなく、生徒と対話し、批判的思考を育むサポートも行います。データプライバシーに関する懸念についても、David Game Collegeは厳格なデータ保護対策を導入しているとのことです。
さらに、こうした最先端の技術を使用できるか否かの格差から生じるリスクについての批判もありますが、この取り組みが成功すれば、スケールメリットが生まれ、多くの生徒に利用可能になる可能性があります。( 参考記事)
今後の教育への期待
Bloomによる研究をはじめ、個別最適化された教育の効果が繰り返し示されています。学習の進度は生徒それぞれで異なり、十分な時間と適切なサポートがあれば全ての生徒が知識やスキルを習得できるというBloomの考えは、AIによって現実味を帯びています。
またAIは、教師を補完する存在として、採点やデータ分析、授業計画などのタスクを自動化し、教師が生徒との関係を築くことや創造性を促すことに専念できる環境を作り出します。AIと教師が協力すれば、より個別最適化され、効率的かつ効果的な学習環境を作り出すことができるでしょう。
テクノロジーが進化し続ける中で、教育の方法も進化していきます。教育の未来は、AIと人間の手によって共に作り上げられていくようです。