
アルメニアの小学校では、創造性や問題解決力を高めることなどに効果的という理由でチェスが必修となったそうです。しかし、学習科学の研究者であるPaul Kirschner氏によれば、チェスでは創造性や問題解決力を発達させることはできません。以下Kirschner氏の記事を紹介します。
アルメニア当局は、問題解決などの汎用的スキルや、創造性などの汎用的特性というものが存在すると考えており、チェスを学ぶことによってそのような汎用的スキルや特性を発達させることを期待しています。一般にも、パズルなどを使ってこうした能力を高めることを謳った講座が存在します。しかし研究によれば、問題解決能力や創造性を高める万能薬はありません。
- 汎用的スキル(問題解決能力)
スキルとは、何かを行うときに、それに関する知識を適時かつ効果的に使う能力のことです。何かを適切に行うには、まずその分野に固有の知識が必要とされます。たとえば問題解決を行うとき、自分が何も知らない分野に関して効果的にそれを行うことはできません。スキルは常に分野固有です。チェスを学んだからと言って、問題解決力が高まるとは限りません。
- 汎用的特性(創造性)
創造性は、個人の特性(つまり時間が経っても比較的安定している)であり、教えることが非常に困難です。創造性のために唯一できるのは、創造性を発揮できるような環境(安心して失敗したり、変わったことができる)を用意することです。
創造性とは、価値ある独自のアイデアを思いつくプロセスのことです。創造性を発揮することによって価値ある何かを生み出すにも、やはり知識とスキルが不可欠です。チェスのやり方を知らない人が、チェスの問題を説くための創造的で価値ある方法を思いつくことができるでしょうか?
元の記事:
https://3starlearningexperiences.wordpress.com/2018/05/21/chess-in-schools-holy-grail-or-snake-oil/
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