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2025.01.24

IPIニュースレターvol.18:AIを活用した倍速学習とは?

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Sam Altmanは、あるインタビューの中で、「もし自分が今23~24歳で、現在のようなインフラがあるのだったら、特定スキルを教えるAIチューターで起業したい」と言っています(この動画の32分あたり)。教育への生成AIの活用は、今後ますます期待される分野であり、その進展から目を離すことができません。

生成AIは教育の分野でさまざまに活用されるようになり、その効果に関する事例も頻繁に目にするようになっています。今日は、その中でも特に、AIチューター(AIによる教師)の導入効果に関する事例を紹介します。

 

教師のいない学校

Charter school is replacing teachers with AI

2014年に設立された米国のAlpha Schoolは、10年にわたる実践を通じて「2 Hour Learning」という学習モデルを確立しました。この「2 Hour Learning」は、AIを活用した個別指導型の学習プログラムであり、日々わずか2時間の集中学習で2倍の成果を上げることを目的としています。

この学校の生徒は、AIを活用した個別適応型学習により、通常の授業の2倍のペースで学んでいます。具体的には、毎朝、AIアプリを使って2時間、個別適応型の学習で集中的に学び、午後は人間のガイドとともに、起業家精神、リーダーシップ、チームワーク、社会性などの「ライフスキルを磨く」活動に取り組みます。

この「2 Hour Learning」モデルはまさに、知識を中心とした従来の学習はAIを使って効率的に学び、それによって生まれた時間を使ってより重要なスキルを実地に学ぶ好例といえます。

 

この学校によれば、このシステムは80~90%の生徒に効果があり、生徒は常にNWEA(全米教育進歩評価)の上位10%にランクインしているとのことです。

 

このAlpha Schoolは、比較的学費も高い私立学校ですが、アリゾナ州の公立学校(チャータースクール)でも今後、この「2 Hour Learning」モデルが取り入れられることになったとのことです(『Arizona School’s Curriculum Will Be Taught by AI, No Teachers』)

 

なお、この「2 Hour Learning」に使用されている生成AIモデルやデータセットなど、具体的なテクノロジー環境の詳細は明らかにされていません。

 

参考資料:「2 Hour Learning White Paper 2024

 

 

AIチューターにより学習効率が倍増

Students Learned Twice As Much With AI Tutor Than Typical Lecture

 

ハーバード大学による最近の研究(『AI Tutoring Outperforms Active Learning』)では、適切な教え方をトレーニングしたAIチューターを使うことにより、通常の方法による授業の2倍の効率で学べることが示されています。

これは、AI相手であれば学生が遠慮せず好きなだけ質問できるので短時間で疑問点を解消できたり、自分のペースで学べるので自分にとって難しい部分により多くの時間をかけ、すでに理解している部分は迅速に進められることにより効率的な学習が可能になるからであると考えられています。

この研究に取り組んだ研究者によれば、AIチューターは人間の教師を置き換えるものではありません。教師は、AIチューターを通じて学生の状況や理解のキャップを把握して自分の指導を調整するなど、学習を進めるための有益なリソースとしてAIチューターを活用し、学習効果をさらに高められるとのことです。

2年分を6週間で学ぶ

From chalkboards to chatbots: Transforming learning in Nigeria, one prompt at a time

この世界銀行のブログ記事によれば、ナイジェリアの高校で生成AIを活用して学んだところ、通常の学習の約2年分に相当する成果を6週間で達成(6週間で標準偏差が0.3改善。多くの研究で標準偏差0.3の改善は、一般的な学校教育で約2年分の進歩に相当するとされている)したとのことです。また、このプログラムへの参加が多い学生ほど学習効果が高まることも確認されています。

この試みでは、特別なAIアプリケーションは使用せず、教師が生成AI使用のガイド役となり、学生が生成AIとプロンプトでやり取りすることを通じて学び、各セッションの終わりには振り返りの演習が行われる方法がとられました(『From chalkboards to chatbots in Nigeria: 7 lessons to pioneer generative AI for education』)。

このプログラムに参加した学生は、その対象科目(英語、AI知識、デジタルスキル)以外についても成績が向上したそうです。これは、このプログラムを通じて学んだ生成AIの活用スキルが、他の科目を自主学習する際にも活かされたからだと考えられます。

教師のサポートのもとで注意深く使用すれば、生成AIはバーチャルチューターとして効果的に機能し、学習意欲を高める効果もあるようです。