コラム

日本IBM人財ソリューション株式会社代表取締役 片岡久氏
第10回 組織変革を可能にする人材育成のあり方とは

人財育成に関して先進的な取り組みをしている日本IBM人財ソリューション株式会社代表取締役の片岡久氏にお話を伺いました。(インタビュー2012年8月3日、敬称略)
これはその第10回になります。

第10回 組織変革を可能にする人材育成のあり方とは

見えない価値を見える化する

浦山人材育成は、ひとりひとりを育てるだけではなくて組織のことを考えて進めていく必要があると思います。片岡さんとは、ASTDの組織開発委員会でずっと一緒に活動させていただきました。組織の関わり方、組織を変えていかなくてはならない場合の考え方をお聞かせください。

片岡:二つあります。ひとつは、見えない価値を見える化すること。最近、杉本博(スギモトヒロシ)さんという写真家、美術の構成をする方が「人類の歴史っていうのは目に見えない精神的なものを物質にしていく、目に見えるものにしていく、そういうアートの歴史だ」と、おっしゃっています。アートっていうのは、目に見えないものを見えるようにしていくことだと。たしかに絵画も、彫刻もそうです。彼の言っているアートというのは、芸術だけではなくて、例えば医学だとか、あるいは宗教などを含めての意味だと思います。教育や研修もそうではないかと思います。

 例えば、最初に申し上げたように、誰かが発明したもの、それを具体的にモノにしていく、あるいは仕組みにしていく、目に見えるものにしていくのがイノベーションです。そのイノベーションにつないでために教育を使うわけです。我々現在行っている研修、あるいは教育は、目に見えないけれど価値があるものです。この価値を具体的に、形にすることだと思います

 もうひとつは、ITの技術もリベラルアーツ、一般教養として教えるとか、あるいは教え合う、学び合うことで、個人と個人がつながっていく時代であるということ。ITは組織と個人、もしくは組織が活性化していくときに必須のものだと思います。あるいはむしろ、ITを通じて組織が活性化していく、あるいは繋がっていくことが、とても重要だと思います。

 仕事は組織でやる、あるいはチームでやる時代です。なぜならば、そのひとりひとりが専門性をもっており、より専門性を深めていくと個別化されます。ところが大きな課題には、個別の専門能力だけでは対応できない。大きな課題を解決していくためには専門性を持った人たちが集まって、チームになって、解決していくことが必要です。そのチーム作りのために必要なのが教育であったり、あるいは学習であったりするのです。チーム作りによって大きな課題を解決していく時代なのです。

浦山ひとりひとりが自立しつつチームとしても機能するということすね。

片岡:イメージの中で最近よく考えるのが、バンダリーマネージメント。米国でもあります。人間の才能の集積されたもの。細胞のモデル。個々の細胞は細胞膜で別れています。その細胞と細胞の間でいろいろなものが流通している。情報が流通していたり、あるいは体温のようなものが流通していたり。それによってひとつの個体ができている。それは何を通じているかというと、別に管があるわけではなくて、その膜を通じて流通をされている。個人と個人の集まりである組織のことを考えると、そこに何か特別な仕掛けが必要なわけではなくて、細胞膜にあたる何らかのものによって、個人個人がよりよく繋がっていく。

 では、その細胞膜って何なのか。これは、細胞を守りながら外に開いていくもの。それはひょっとしたらリーダーシップかもしれない。リーダーシップというのは別にリーダーがいるからリーダーシップではなくて、個人個人がもっているものとしてのリーダーシップです。リーダーシップというからには自分だけではない。他の人が必要です。他の人たちと自ら繋がろうとする力

浦山受動的ではなく、自立的に存在し、オープンに人と繋がりながら成長する

片岡:はい。個人が成長し、さらにその組織が成長していく上で重要なひとつの要素としてリーダーシップがあるのではないか。ひとりのリーダーに複数の部下という形のリーダーシップではなくて、みな個人個人がそれぞれ持つリーダーシップで結ばれる。それを自覚する、育てていく。それによってある意味自然に組織というものがより活性化されたり、コミュニケーションがより良く出来る人間になったりするのではないかと思います。

浦山:生命体としての動き、似たような組織ですね。

片岡:はい、そうですね。それを触媒として促進していくために私どもの存在があり、
私どもがフォーカスをすべきエリアがそこにあると最近思います。

浦山:なるほど。素晴らしいですね。