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IPIニュースレターvol.23:教育への生成AI適用がついに本格化!全米40万人の教師を巻き込む大規模プロジェクトとは?

教育への生成AIの適用は引き続き注目を集めています。このニュースレターではこれまで、OpenAI、Google、Anthropicなど、主要な生成AI企業が、それぞれ独自に教育分野で進めている取り組みを紹介してきました。しかし2025年7月8日、こうした主要な企業がはじめて連携し、アメリカ教師連盟(AFT: American Federation of Teachers)と手を組んで、40万人の教育者を対象にした大規模なAIトレーニングプログラムが開始されることが発表されました(Googleは含まれていません)。今回は、この大規模な連携プログラムの概要をお届けします。

生成AIの教育への活用は、まず教える側から

アメリカ教師連盟(AFT)は、全米180万人の教育者を代表する労働組合であり、教育の質向上と教師の権利擁護を目的に活動している団体です。

生成AIを教育に効果的に活用するには、まず教師自身がAIの知識とスキルを身につけることが不可欠です。そのため、Microsoft、OpenAI、AnthropicがこのAFTと連携し、総額2300万ドルの投資で「National Academy for AI Instruction」を設立し、40万人のK-12教育者に対して無料のAIトレーニングを提供することになりました(Microsoftが5年間で1250万ドル、OpenAIが1000万ドル、Anthropicが初年度50万ドルを提供)。このプログラムは、2025年秋にニューヨーク市のUnited Federation of Teachers(UFT)で開始され、2030年までに全米に拡大される予定とのことです(詳細情報)。

このプログラムでは、AIの基本的な仕組みや倫理的利用方法、授業設計への統合方法をカバーするワークショップ、オンラインコース、ハンズオントレーニングが提供されます。具体的には、AIを活用した授業計画の作成、個別指導の強化、倫理的なデータ使用に関する実践的な指導が行われ、教育者がAIを安全かつ効果的に授業に取り入れるスキルを習得することを目指します。

参考情報:

Working with 400,000 teachers to shape the future of AI in schools(OpenAIの発表)』

Teachers union partners with Anthropic, Microsoft and OpenAI to launch AI-training academy – CBS News』

なお、Googleはこの提携には参加していませんが、独自の「Google AI for Educators」プログラムを通じて、教師のAIスキル向上を支援しています。

生成AIの教育適用:認知能力低下の懸念と効果的な活用法

生成AIが学習効果を高める側面はありますが、不適切な方法で使用すれば、むしろ学習の妨げとなります。研究によれば、AIを単なる回答ツールとして使うと、認知能力や学習成果が低下することが示されています。

たとえば、MITによる研究では、ChatGPTを用いて文章作成を行った学生が、AIを使用しなかった学生に比べて作文の内容を記憶する能力が有意に低下したことが報告されています。この研究は、AIが提供する即時の回答に頼ることで、学習者の能動的な思考や情報処理が妨げられる可能性を指摘しています。同様に、トルコの高校で行われた実験では、教師の指導なしでChatGPTを使用した生徒の最終試験成績が17%低下したとのことです。

とはいえ、これまでこのニュースレターでも紹介してきたように、適切な指導下でAIを活用すれば、学習効果は飛躍的に向上します。

World Bankがナイジェリアで行った研究では、教師の指導とGPT-4を組み合わせたチューターにより学習成果が2倍以上に高まることが確認されています。

また、Harvardの物理学クラスで行われた実験では、適切なプロンプトが設定されたAIを使用して学習した場合には、従来の授業を上回る成果を上げています。

学習へのAIの効果的な活用には、AIを「教える」パートナーとして使い、教師の介入や適切なプロンプトを使用することが不可欠なのです。

参考情報:

Against “Brain Damage”』(ペンシルベニア大学ウォートン校の教授で、AIと教育について研究しているEthan Mollick氏による記事)

AIと教師の協働で切り開く教育の未来

AIに任せれば、学習目標に照らして学習者の現在のレベルを測定し、学習者の理解や習得レベルに応じて適時に学習を調整して最適な難しさを作り出し、学習者を励まし、最短・最高の学習効果を生むような万能の教育用AIはまだ存在しないようです。AIを教育に活用するには、教師の指導や倫理的な判断、感情面のサポートが欠かせません。今回紹介した教師への大規模なAI教育からもうかがえるように、今後しばらくは、生成AIと教師の協働によって教育に取り組むやり方が標準となっていくようです。完璧なAI教師は存在しなくとも、AIを単なる回答ツールではなく、学びのパートナーとしてうまく活用すれば、教育の質を向上させ、創造性を育むことができるのです。

Written by : 遠藤