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IPIニュースレターvol.26:OpenAIの最新研究が示唆する「職場の学び」の新たなかたちとは?
2025.11.07
このニュースレターではこれまで、OpenAIやGoogleなどによる生成AIを活用した学習ツールを紹介してきました。しかし、こうしたツールを使うか否かにかかわらず、多くの人がすでに日々の仕事や学習の中で、何らかの形で生成AIを使用して学んでいます。
今回は、OpenAIが最近発表した生成AIの活用に関する論文から、職場の学習におけるAI活用の部分に絞って紹介します。
OpenAIによる論文『 How People Use ChatGPT』とは?
2025年9月に、OpenAI、ハーバード大学、デューク大学の共同研究チームが発表したこの論文は、2024年5月~2025年6月にかけて、世界中のChatGPTユーザーの110万件超の会話データを匿名で分析し、その利用者層や利用目的、経済的影響を明らかにすることを目的としています。この研究は、ChatGPTの利用データを基にした初の経済学的研究であり、プライバシーを保護しながら、生成AIの実際の利用状況を詳細に分析しています。
職場での使用に関していえば、ChatGPTの利用の約7割は仕事以外の目的でしたが、職場での活用も着実に拡大しているとのことです。職場ではライティング目的の活用が圧倒的に多く、特に、教育水準の高い専門職層での利用が顕著とのことです。
職場の学習におけるAI活用の実態
この論文によれば、生成AIは職場の学習に主に以下の3つの方法で活用されています。
1. 職場利用の約半数は「質問・助言を求める」メッセージ
ChatGPTは単なる答えの提供者ではなく、「考えを整理し、判断を導くパートナー」として活用されています。たとえば「顧客への提案文を改善するには?」、「データの傾向をどう読むべきか?」といったやり取りが、日常業務の中での学びを促しています。
2. 全メッセージの約1割が「教育・トレーニング」目的
ChatGPTは、たとえばコードレビュー、報告書の添削、専門用語の解説など、若手社員や専門職の自己研鑽ツールとして活用されており、人による指導では追いつかない学びのすき間を埋めています。
3. 職場で送信されるメッセージの約6割は、「情報の収集・解釈・説明」に関連
ChatGPTは、仕事で必要とされる情報を集めたり、内容を整理・要約したりするだけでなく、それをもとに説明文や提案文などのアウトプットを作成できます。このように情報の理解とアウトプットを循環させることで、学びを仕事の中に埋め込む役割を果たしています。
AI使用に伴う課題
AI活用には当然、課題もあります。
ChatGPTの回答は流暢でも常に正確とは限らず、誤情報をそのまま受け取る危険があります。適切に使いこなすには、盲信せず内容を検証するAIリテラシーが欠かせません。また、書類作成や分析をAIに任せすぎると、人間の思考スキルが退化するおそれもあります。重要なのは「AIに任せきる」ことではなく、「AIとともに考える」姿勢です。さらに、高学歴・高スキル層ほどAIを効果的に活用して成果を上げており、こうしたAI活用力の差が新たな学習格差につながりつつあります。
今後の展望:AIは「学習の伴走者」に
これまでの職場の学習は、研修や座学など実務と切り離された形で行われ、学んだことが現場で活かされにくいという課題がありました。「仕事の流れの中で学ぶ(Learning in the Flow of Work)」ことの重要性は、以前から指摘されてはいましたが、実現が容易ではありませんでした。
しかし今や、AIがこの壁を崩しつつあります。ChatGPTのような生成AIは、仕事の最中にリアルタイムに質問や助言を得ることを可能にし、学びの瞬間を業務の中に埋め込む環境を生み出しています。これにより、個人の経験や課題に合わせてパーソナライズされた学習支援が進み、知識の定着と適用が加速します。実際、生成AIのプロンプトを直接操作するのではなく、使いやすいインターフェイスや、特定の機能に特化した職場の学習用の便利なAIツールが普及しつつあります。
AIは、単に労働を自動化する装置ではなく、人の思考と創造を支える「学びの伴走者」へと進化しています。今後、企業の人材育成は、AIを活用した「仕事の流れの中での学習」を中心に再設計されていくでしょう。AIは、単に知識を届ける教師ではなく、私たちの知的探究を広げる伴走者として、職場学習の風景を根本から変えていくはずです。