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IPIニュースレターvol.22:生成AIが切り開く学びの未来:最新研究が語る真実とは?
2025.06.20

このニュースレターではこれまで、生成AIを活用した革新的な学習への個別の取り組みを数多く紹介してきました。今回は、生成AIが学生の学習成果や思考力に与える影響について多数の論文に基づき総合的に探った最新のメタ分析を紹介します。この研究は、教育にもたらすAI活用の可能性をさらに明確に示すものであり、多くの専門家の注目を集めています。
ChatGPTの学習効果に関する最新のメタ分析の概要
『 The effect of ChatGPT on students’ learning performance, learning perception, and higher-order thinking: insights from a meta-analysis』
このNature誌に掲載されたメタ分析は、2022年11月から2025年2月までに実施された51の実験的・準実験的研究に基づき、ChatGPTが学生の学習に与える影響を検証したものです。この分析は、学習成果、学習に対する認識、高次思考の3つの観点に焦点を当てて行われ、以下のような結果が示されています。
学習成果(learning performance):これはテストや課題の点数など知識・スキルに関して定量的に測定できる学習成果のことです。この研究では、ChatGPTは学習成果に大きな効果(効果サイズ g = 0.867)をもたらし、特にSTEM関連科目や問題解決型の学習環境で顕著な効果がみられました。
学習に対する認識(learning perception):これは、満足度、モチベーション、自己効力感、有用性、態度、エンゲージメントなど、学習プロセスや学習体験に対して学習者が抱く主観的な評価や感じ方のことであり、その効果は中程度(g = 0.456)とのことです。
高次思考(higher-order thinking):これは、批判的思考や分析力などの単なる知識の暗記や理解を超えた、より高度な認知プロセスを指し、これに関しても中程度の効果(g = 0.457)が確認されました。特にChatGPTが「知的なチューター」として使用された場合(例:学生が質問を通じて深く考えたり、分析を促す対話を行う場合)に効果が高まりました。ただし、プロジェクト型学習のような協働的・オープンエンドな環境では効果が限定的だったとのことです。
効果を左右する要因
ChatGPTの効果は、使用方法や期間によって異なります。「学習成果」に関しては、4~8週間の使用で最も効果が高かった一方、短すぎる介入では効果が限定的であり、長期使用では過度な依存による効果の低下が見られました。「学習に対する認識」に関しては、8週間を超えると効果が高まりました。
また、問題解決型の学習やスキル重視の科目では特に有効でしたが、プロジェクト型の学習では効果がやや低い結果となったとのことです。これは、プロジェクト型学習では、協働や自由度の高い環境が求められる一方、ChatGPTは主に個別の質問応答や構造化されたタスク支援に適しているためであると考えられています。
研究の特徴と今後の展望
この研究は、PRISMA基準に基づき6,621件の論文を厳選し、英語の実験研究のみを対象としました。対象は主に大学生で、小学生や幼児教育に関するデータは不足しています。研究チームは、ChatGPTをブルームのタキソノミーなどの構造化された教育モデルに組み込むことや、形成的評価と組み合わせることを推奨しており、若年層や混合研究デザインによるさらなる研究が必要と述べています。
AIの専門家も注目!
この研究は、教育にもたらすAI活用の可能性を明確に示すものであり、多くの専門家が注目しています。たとえば、ペンシルベニア大学ウォートン校の教授で、AIと教育のについて研究しているEthan Mollick氏にとっても、この研究結果は意外だったようで、そのX(旧Twitter)投稿の中で「I was actually a little surprised that the results were as positive as they are(実は、結果がこれほどポジティブだったことに少し驚いた)」と述べるなど、そのポジティブな結果に驚きを示しています。また、Microsoft AIのCEOであり、AIの社会的影響を牽引するMustafa Suleyman氏は、「The fear: AI will make students lazy. The reality? It’s making them smarter. (AIが学生を怠惰にするという懸念は誤り。むしろ、批判的思考を高めている)」と強調し、この51の研究が示すAIの教育効果に注目しています。
学びの未来を共創する一歩
このメタ分析は、ChatGPTが単なる補助ツールを超え、適切に活用すれば学びを深化させる力を持つことを示しています。生成AIは、教師や学生と共に、知識の探求を加速し、批判的思考を磨くパートナーとなり得るのです。私たちは今、技術と人間の知恵が作り出す新たな教育の地平に立っています。この可能性を最大限に引き出し、未来の学びを共創していくための探求は続きます。
参考資料:『 Study finds ChatGPT improves student outcomes but shows limitations in complex thinking tasks』