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事例で学ぶだけでは足りない——なぜ「リフレクション(振り返り)学習」が必要か
変化が激しく不確実性の高いVUCA時代において、過去の成功事例を学ぶだけの研修では、現場での実践や判断力の向上につながりにくくなっています。本記事では、なぜ「事例に基づく学習」だけでは不十分なのかを問い直し、経験学習理論(Kolb)や省察的実践(Schön)を手がかりに、「リフレクション(振り返り)学習」が企業の人材育成において果たす役割を解説します。さらに、AI人材育成ツール「reflect」を例に、個々人の文脈に根ざした経験の振り返りをどのように仕組み化し、実践知や行動変容につなげられるのかを紹介します。研修の効果を現場で持続させたい人事・研修担当者、マネージャーに向けた、理論と実務をつなぐ内容です。
最近では、多くの企業で事例に基づいて学ぶ研修も活用されるようになっています。
しかし、研修担当者やマネジメント側からは、以下のような声も聞こえてきます。
- 「学んだ事例と、現場の状況が違いすぎて応用できない」
- 「複雑な判断のための”正解の事例” がそもそも存在しない」
- 「現場に戻った後こそ学びの質が問われるが、その支援方法が難しい」
これは、現代のビジネスは、変動性・不確実性が高い環境(VUCA)にあり、過去の事例を“なぞる”だけでは再現できないほど、現場の文脈が複雑化していることが背景にあります。
では、こうした環境で学び成長するには、何が必要なのでしょう?
企業研修を提供するIPイノベーションズが、各社を支援する中で見えてきた鍵の1つが、「経験に基づくリフレクション(省察、振り返り)を軸にした学習」です。
本記事では、
- Kolb の経験学習理論
- VUCA時代の複雑性
- Schön の反省的実践
を踏まえながら、
なぜ事例に基づく学習だけでは不十分なのか、reflect のような「個々人の文脈に根ざした学び」がなぜ価値を持つのかを、理論と実践の両面から解説します。
まず、4段階で捉える「経験→学び」の構造: David A. Kolb の経験学習理論
まず、学びの理論的な土台として、教育・研修の世界で広く知られる Kolb の「経験学習モデル (Experiential Learning Model)」があります。Kolb は、学習を以下の 4 段階のサイクルで捉える考えを提唱しています。
| 段階 | 内容 |
| Concrete Experience(具体的な経験) | 日常業務、現場での実践、試行錯誤など、リアルな体験をする |
| Reflective Observation(省察・振り返り) | その経験を振り返り、「何が起きたか」「なぜそうなったか」を観察・分析する |
| Abstract Conceptualization(抽象的概念化) | 振り返りから普遍的なパターンや理論、仮説を見出す |
| Active Experimentation(能動的実験) | 導き出した学びを次の行動で試し、新たな経験を得る |
このサイクルを回すことで、ただ経験を積むだけでなく、「知識としての学び」、「能力としての成長」につなげることができます。つまりこれは、単なる「経験」や「トライ&エラー」ではなく、「経験を学びに変える仕組み」です。
ただし、Kolb の理論にも限界があります。たとえばある日本人を対象とした研究では、Kolb が仮定したような「抽象–具体」や「内省–行動」の 2 軸・4象限という枠組みが当てはまらず、日本の学習者には別の構造や学習スタイルがある可能性がある、という報告もあります。
この点は重要であり、「理論どおりにすれば誰でも同じように学べる」という想定は通用しにくい —— つまり “環境・個人差・文脈の違い” を考慮すべき、ということです。
なぜ今、“経験+振り返り(=リフレクション)” がより重要か — 現代のビジネス環境: VUCA 時代
現代のビジネス環境は以前にも増して複雑・不確実・変動が激しく、いわゆる VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と呼ばれる時代であり、かつてのように「過去の成功ケースをなぞる」だけでは対応しきれなくなっています。
VUCAの時代に企業が生き残るには、変化を恐れず柔軟に対応できる「自律型/適応型人材」、そして「現場で考え、試し、学び続ける文化」が必要です。
しかし、過去の事例に基づく学習に頼るだけでは、以下のような限界があります:
- 事例は過去の “別の組織・時代・条件” のもの。自社/自部署の状況とは異なるかもしれない
- そもそも成功した事例だけを抜き出すと、“なぜ成功したか”“なぜそれが働いたか”の本質を見誤る可能性がある
- 事例通りにやっても、現場の偶発性・複雑性により、うまくいかない可能性がある
だからこそ、「自分たちの現場で起きた“経験”を元に」「その場で振り返り、学び、また試す」を繰り返す“リフレクション学習”が、VUCAの時代に価値を持つのです。
“理論知”と“実践知”を往復する: Donald A. Schön の「省察的実践 (Reflective Practice)」の示すもの
Kolb の経験学習モデルが「経験 → 振り返り → 理論化 → 実践」をサイクルとするなら、さらにその延長で、“学び” を現場の実践に根づかせる理論に、Donald Schön の「省察的実践 (Reflective Practice)」があります。
Schön は、複雑で不確定な現場(管理職、教育、医療、設計、経営など)においては、単なる “技術的合理性 (technical rationality)” による対処では不十分であり、むしろ、行動の “最中” や “行動後の振り返り” を通じて、「何が起きているか」「なぜそうなったか」「次はどうするか」を問い直す「リフレクション (反省・省察)」こそが、専門性/成熟において重要だと主張しています(参考[PDF])。
具体的には、Schön は以下を区別しています:
● Reflection-in-Action(行為の最中の省察) — 行動しながら、その場で起きる “ズレ”“違和感”“予想外” に気づき、即時に考え直す
● Reflection-on-Action(行為後の省察) — 終わった後で振り返り、より広く/長期的に意味やパターンを捉え直す
このような省察的実践を通じて、現場でしか通用しない「実践知 (knowing-in-practice)」が育ち、変化や不確実性に対処できる力が身につくのです(参考)。
また、日本でも、こうした「省察的実践」の育成をテーマとした研究や実践が行われてきており、単なる“テクニカルなスキル”にとどまらない専門職教育の枠組みとして受け入れられています(参考)。
reflect(振り返り [リフレクション] 学習)が持つ強み
このような理論背景を踏まえると、AI人材育成ツールreflect のようなツールや仕組みが、日本の職場で注目される理由が見えてきます。
こうしたツール/仕組みの強み:
● 自社の文脈に即した「具体的経験」を捉えられる
過去の事例だけではなく、日々の自分たちの業務・挑戦・失敗・改善を出発点とすることで、「自社にとって意味のある学び」が得られる。
● 振り返り (reflection) のプロセスを仕組み化できる
多忙な現場でも、振り返りを「やらされる義務」ではなく自然なサイクルにできる。何かを行っている最中、何かを行った後に振り返る(Reflection-in-Action, Reflection-on-Action)ことの両面を支える土台となる。
● 経験から“自分たちの理論” をつくり出せる
抽象的な理論を押し付けるのではなく、自分たちの現場と感覚に即したやり方・意味づけを再構築できます。これが、VUCA 時代における「自律型/適応型人材」と組織文化の基盤になります。
変化への柔軟性と持続的な学びの文化の両立
一度学んで終わり、という研修型ではなく、継続的で実践的な学びのサイクルを回すことができるので、組織が変化に強くなり、現場力の底上げを図ることができます。
こうした点は、IPイノベーションズがこれまでの研修実績や組織開発の経験を活かし、「日本企業の文脈 × 実践的な人材育成」を組み合わせた支援を提案できる強みです。
ただし気をつけるべきこと:モデルの限界と“個の違い”“文脈依存性”
ただし、Kolb の経験学習モデルや Schön の反省的実践といえども万能ではなく、いくつか注意点があります。
● たとえば、日本人を対象とした研究では、Kolb が想定したような 2軸・4象限の学習スタイルモデルがそのまま当てはまらない可能性があるという報告があります。
● また、現場の複雑さや不確実さが高まるとき、“理論 (抽象化)” を当てはめすぎると、むしろ現場とかけ離れた観念に陥る恐れがあります。
● さらに、振り返りを “形骸化” したり、“教えられた通り” の枠組みに閉じ込めたりすると、本来の “自分たちの学び/実践知づくり” のポテンシャルを引き出すことができません。
つまり重要なのは、「ツール (reflect) を使えば自動的にうまくいく」のではなく、「使う人 (人材)、使う環境 (組織)、使い方 (設計)」を丁寧に整えること — それには、弊社が長年培ってきた研修経験や組織開発ノウハウが生きるのです。
結び:不確実な時代における“学びの循環”を、現場に根づかせる
今は過去の成功事例を “なぞるだけ” では通用しない時代です。複雑性・不確実性が高まり、価値観や状況も多様化しています。そんな中で、組織や人材は、変化に“ただ反応する”のではなく、“自ら問い、考え、学び直す”力を持つことが求められています。 その意味で、Kolb の経験学習サイクルと Schön の反省的実践に基づく “省察的学習” は、理論としても実践としても、非常に強力なフレームとなります。そして、 reflect のようなツールを通じて、「自分たちの文脈に即した学び」、「振り返りと実践の循環」を定着させることは、日本企業、特に研修・人材育成に責任を持つマネージャーや研修担当者にとって、有益な投資となるでしょう。
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