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2019.08.20

認知負荷理論を考案したJohn Swellerへのインタビュー その2

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これは、Connie Malamedさんによる、認知負荷理論の考案者であるJohn Sweller氏へのインタビューの続きです(前半)。後半では、認知負荷理論に基づいてインストラクションデザインを行う場合に注意点が中心です。

 

認知負荷に関してインストラクション時に注意すること

インストラクターは、自分が教えようとする内容をすべて長期記憶に保持しています。だから教える内容は長期記憶から取り出せばいいので、インストラクターの作業記憶にかかる認知負荷はそれほど大きくありません。一方、学習者にとっては、教えられる情報は新しいものなので、作業記憶への負荷が高く、簡単に忘れてしまいます。スライドを次から次へと説明しても、学習者はすぐに忘れてしまいます。また、スライド相互の関連性がある内容であれば、要素間のインタラクティビティが生じ、理解が困難になります。だからプレゼンテーションを行うときには、何らかの配布物を用意する必要があります。

認知負荷が過度にならないユーザーインターフェイスを用意する

たとえば学習に使うWebページに多くの情報があると、学習者はどこに注目したらいいかわかりません。そのページを作ったインストラクションデザイナーは、注目すべき場所がどこかわかっていますが、学習者にとってはすべてが新しい情報であり、作業記憶に負荷がかかります。だから学習に使うWebページには、不可欠な情報のみを含めるようにし、装飾的な要素など余計なものは取り除きます。

冗長性を排除する

過度の認知負荷を避け、学習効果を高めるには、冗長性を排除、つまり本来必要ではないすべてを取り除く必要があります。

たとえば、テキストに書いてあることと全く同じナレーションがついていると、それらを同期するための調整が必要となり、作業記憶に余計な負荷がかかります。これは無駄なことです。

注意の分断を避ける

画面の一部にある情報と、他の部分にある情報を一緒にみなければ理解できない場合には、それらを物理的に同じ場所にまとめ、複数の箇所に注意を向ける必要がないようにする必要があります。これには、関連する情報を並べて配置したり、対応している部分を矢印で示すなどの方法をとります。

一時的情報(transient information)

作業記憶には情報を20秒程度しか保持できないので、アニメーションや動画など、動きがあり、見たものがすぐに消えて別の情報に置き換えられてしまうような場合、一時的情報(transient information)の問題が生じます。情報の流れがあり、それが次第に変化する場合、人は目前の情報を処理する一方、それ以前の情報は忘れてしまいます。以前に示された情報が、現在みている情報と関係なければこれは問題とならないけれども、関連性がある場合には、前に進んだり、後ろに戻ったりするための機能を用意する必要があります。

内在性認知負荷(intrinsic cognitive load)と外在性(余計な)認知負荷(extraneous cognitive load)

内在性認知負荷が高いとは、学習内容を構成する要素同士が関連している(要素間のインタラクティビティが高い)ので、作業記憶に高い負荷がかかり、うまく処理できないことを意味します。これはその学習内容自体が本来備える複雑さのことです。

外在性(余計な)認知負荷とは、教材の作りが不適切なために作業記憶にかかる余計な認知負荷のことです。

内在性認知負荷は、難しい学習内容それ自体に伴う負荷なので、それを教えないことによってしかコントロールできません。しかし、外在性認知負荷は、作業記憶にかかる余計な認知負荷を減らすような学習デザインをすることによってコントロールすることができます。つまり教え方を変えればいいのです。

孤立要素効果(isolated elements effect)

認知負荷を軽減するには、複雑な内容を学ぶときに、はじめに要素同士のつながりを示した上で、それぞれの要素について学び、最後に再び要素間のつながりを示す方法をとることができます。これは孤立要素効果(isolated elements effect)と呼ばれています。複雑な内容の学習では、要素間のインタラクティビティが高いので、はじめにひとつずつ要素を学ぶことによってインタラクティビティを減らし、最後にすべてを習得した上で、全体のつながりを学ぶのです。

初心者は発見型学習に向いていない

学ぼうとする分野についてまだ何も知らなければ、自分で何かを発見しようとしても適切に行うことができません。初心者の場合は、ガイド付きインストラクションの方が、他の方法よりも適しています。学習を進めるうちに適切な知識ベースが構築されれば、自分で物事を探索して、まだ教わっていないことを発見できるようになります。

 

 

元の記事:

http://theelearningcoach.com/podcasts/55/

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