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2023.09.01

IPIニュースレター vol. 04:動画を使った効果的な学習とは?最新研究でわかった驚きの事実(2023/09/01)

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生成AIを活用する取り組みは日々行われており、それによる真の変化が生まれるのはこれからというところですが、ガートナーの「 2023 Hype Cycle for Emerging Technologies(先進テクノロジーのハイプサイクル2023)」によれば、生成AIは「過度な期待」のピーク期にあり、今後次第に期待が低下していくとのことです(解説記事:『 生成AIは「過度な期待」のピーク期–ガートナー「先進テクノロジのハイプサイクル」』)。そこで今回は、生成AIからは少し離れて、動画という古くから使われているテクノロジーと学習について見ていきたいと思います。動画はエンタテインメントだけでなく、以前から学習のための手段として広く活用されてきました。特にYouTubeなどのメディアが発達してからは、人々の興味を惹きつける学習媒体の中心的存在となっています。動画を使った学習についても多くの研究がなされています。

しかし、動画という形式は必ずしも学習に適しているとは言えないので注意が必要です。

■『動画は、「学んだ」という幻想を学習者に抱かせる』 英語記事

研究によれば、動画をみて学習することにより、学習者は「自分はその内容を学んだ」という満足感を抱くけれども、実際には、必ずしもそうではありません。

動画は特に、何かを行う手順など、言葉で説明しづらいことを学ぶのに適しています。しかし概念的知識のように、言葉による理解が重要な学習内容の場合、動画だと映像や言葉が流れてしまい、記憶として定着しません。知識を理解するには、それを表現する文章を何度も読んだり、補助的な画像をみたりして、次第に理解を深める必要があります。音声や映像が瞬時に流れてしまう動画だけでは、理解の定着のためには不十分なのです。しかし、動画を視聴することによる学びは学習者の満足度は高めます(これは、研修に対する学習者の評価と研修結果が必ずしも一致しないことの一例でもあります)。下記の IPIブログにこの記事の内容を日本語でまとめています。

   『 学習用ビデオとエンタメ系ビデオの違い

 

■学習に役立つYouTubeの新機能
YouTubeでは、 学習関連の動画の主要ポイントについての質問を自動的に作ることにより、学習者が動画内容の理解を確認できるようにする機能を開発中(英語)とのことです。この機能は学習効果を高めることに大いに役立つと考えられます(下記「質問やテストは学習効果を高める」参照)。
さらに、YouTubeには2024年ごろまでに、 動画の声の部分を自動翻訳し、元の話者の声色を使って吹き替える機能(英語)が追加されるので、言葉の壁を超えた学習も可能になりそうです。

◆参考:質問やテストは学習効果を高める
私たちの経験からも実感できるように、質問やテストは学習者の注意を引き付け、思考を促すことにより、学習内容を定着させたり、学習を深めるためのとてもよい手段です。 学習に関する研究でも以前から、テストや質問は最も効果的な学習方法の一つと言われています(英語)。(学習者を科学的にエンゲージする方法について多くを発信しているある専門家によれば、「 研修講師は一方的に話すのではなく、3分に1回は参加者に何らかの質問をすべし(英語)」、とのことです)。
動画を使った学習についての研究でも、 長い学習動画を続けて見るより、それをAIによって小さな単位に区切り、AIが生成した練習問題を間にはさんだもので学習したほうが効果が高い(英語)ことがわかっています。

 

■『動画を使った学習は倍速で(時間をおいて2回みれば尚可)』 英語記事
最近、動画を倍速で視聴する人(特に若者)が増えていると半ば批判まじりに言う人もいますが、倍速でみる方法は科学的にみて理にかなっているようです。

ある研究(英語)では、
学習動画を通常スピード、1.5倍速、2倍速、2.5倍速で視聴した場合、速度の違いによる記憶の定着度の違いはほとんどありませんでした。この実験ではさらに、通常スピードで1回のみ動画をみた場合と、2倍速で「時間をおいて」2回みた場合の記憶の程度を比較したところ、2倍速で2回みた場合のほうがよく記憶していたそうです。つまり、同じだけの時間をかけて動画を視聴するのであれば、2倍速で2回視聴したほうが学習効果が高いということです。これは、時間をおいて学習を繰り返すことによる効果(分散効果)といえます。

また 別の研究(英語)によれば、
学習動画を通常スピード、1.5倍速、2倍速で視聴した場合の学習結果を比較すると、1.5倍速と2倍のほうが学習効果が高くなったそうです(1.5倍速と2倍速では学習効果に大きな違いなし)。また、学習者が動画を見た後、学習時の印象について質問したところ、2倍速だと、それより遅い速度よりも学びにくい、楽しくないとの意見が多くみられましたが、実際には学習効果に違いはありませんでした(つまり学習効果に関して学習者の意見はあてにならないということです)。

※動画を高速で視聴した方が必ず効果的ということではありませんのでご注意ください。学習科学の研究は絶対的なものではなく、ちょっとした条件によって結果が変わります。たとえば、学習者にとってその動画の内容が難しすぎる場合には、高速だとかえって学習効果が低下することも考えられます。

◆参考:『記憶の専門家が開発した記憶アプリHippoCameraは動画を倍速再生』 英語記事
脳科学者たちが記憶促進のために開発した HippoCameraというアプリでは、記憶したい情景をユーザーが録画しそれを言葉で簡単に説明すれば、アプリが記憶に最適な方法(つまり倍速で再生。これは海馬の働きを模している)で再生し、振り返りを促します。これにより、単に録画をみた場合よりも記憶が促進されるそうです。

◆参考:『 記憶の仕組み
脳の記憶を司る海馬からの情報転送は睡眠時に行われ、転送時には実時間の倍速程度で興奮パターンの早回し再生が起こり、大脳皮質に情報が送られる。