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2024.01.19

IPIニュースレターvol.08:生成AIによって新たに生まれる仕事とは?AIによるリスキリング、2024年のAIブレイクスルー(2024/01/19)

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AIが人間に取って代わるのではなく、AIを使う人が使わない人にとって代わる」と言われるように、AIを適切に活用すれば、私たちの生産性を向上させることができます。しかし実際のところ、AIの普及によって私たちの仕事や生活に今後どのような変化が生じていくのでしょう。今回は、これに関して主要な組織から発表されたレポート、そして先日米国で開催されたCES2024において著名なAIの専門家が語った2024年のAIブレイクスルーを紹介します。

大規模言語モデル(LLM)が生み出す新たな職種とは?

生成AIは、仕事の生産性の大幅な向上をもたらし、多くの新たな仕事を生み出す一方、その影響で失われる仕事もあります。

世界経済フォーラムによるホワイトペーパー『Jobs of Tomorrow: Large Language Models and Jobs』(2023年9月)では、大規模言語モデル(LLM)が、言語に大きく依存する仕事に与える短期的な影響が分析されています。これによれば、LLMによって自動化される可能性が高いのは、繰り返し的なルーチンワークを中心とした仕事(テレマーケターや銀行窓口係など)であり、単純労働であっても言語に依存しない仕事は今のところLLMの影響が小さいそうです。このレポートによれば、生成AIによって以下の仕事の需要が高まります:

●AIモデル開発者やプロンプトエンジニア

●インターフェイスやインタラクションのデザイナー

●AIを活用したコンテンツ制作

●AIのトレーニングデータの収集

●倫理やガバナンスのスペシャリスト

ただし、たとえば、上記のリストにある「プロンプトエンジニアリング」はすでに花盛りですが、AIの専門家によれば、プロンプトエンジニアリングの流行は一時的なものであり、今後の技術の進歩により、綿密なプロンプトは必要なくなり、プロンプト自体もAIが生成できるようになるそうです。AIによって新たに生まれる仕事の賞味期限は必ずしも長くないようです。(参考記事:『AIを最大限活かしたいなら、プロンプトエンジニアリングは必要ない 問題設定のスキルこそが重要』)

生成AIによるインパクトは、先進国、高度な知識労働ほど大きい
2023年6月に発表されたマッキンゼーのレポート『 生成 AI がもたらす潜在的な経済効果』によれば、生成AIは莫大な経済効果をもたらし、特に「顧客対応」「マーケティング &セールス」「ソフトウェアエンジニアリング」「研究開発(R&D)」の領域で大きな価値が創出されます。
また、生成AIによる業務の自動化は当初予測よりも大幅に(10年程度)前倒しになっており、賃金が高く資金面で実現可能性が高い先進国ほどAIによる自動化が早期にすすむと予想されます。しかも、これまで自動化の可能性が低いと考えられていた高度な知識労働のほうが、その他の職種よりも大きな影響を受けるそうです(たとえば、「教育者、専門家、クリエイターの活動が最も大きなインパクトを受ける可能性がある」とのこと)。生成AIにより労働生産性が大幅に向上する一方、業務や職種の変更も生じ、それをサポートする資金も必要とされます。
国際通貨基金(IMF)が最近発表した調査レポート『 Gen-AI: Artificial Intelligence and the Future of Work』(2024年1月14日)でもこのことが裏付けられています。AIは高度なスキルを要する仕事に与える影響力が高く、先進国の仕事のほうが新興国よりもAIによる大きな影響を受け、多くの仕事がAIに取って代わられるとのことです。AIによる悪影響に対応する社会セーフネットの確立や労働者のリスキリングプログラムの提供なども提唱されています。

 

AIによるリスキリング

AIは、仕事がなくなる脅威をもたらすだけではありません。
デロイトでは、AIを使って業務の効率化をはかる一方、必要とされる人材が変化したときにレイオフして採用し直すのではなく、AIを使って、従業員のスキルや仕事の需要を把握し、既存の従業員の配置転換をしたり、リスキリングさせることを模索しているそうです( 参考記事)。

たとえば この記事に挙げられているように、生成AIを使えば、従業員のスキルギャップを特定し、学習用コンテンツを生成し、リスキリングに必要な研修を個別に行いリアルタイムのフィードバックを与えることなどが可能になります。

 

CES 2024で著名なAI研究者が語った2024年のAIブレイクスルー

先日開催されたCES 2024では、AIを組み込んだ先進的な製品の数々が話題となりました。そこで行われた、AI研究者として著名なAndrew Ng氏とFei-Fei Li氏による対談『 Great Minds, Bold Visions: What’s Next for AI?』によれば、AIをめぐってすでに莫大な金額が動いておりAIのビジネス基盤は強い、生成AIは電気のように汎用的でさまざまなことに活用できる可能性があるなどの理由から、今回のAIブームは一過性のものに終わらず(AIの冬は来ない)、世の中に広く深く浸透し大きな変革をもたらすであろうとのことです。

両氏による2024年のAIブレイクスルー
ラージビジョンモデル(LVM):大規模言語モデル(LLM)が成熟し、今年はAIによる画像生成テクノロジーが発展する
参考:『 言語に頼らず画像理解するLarge Vision Model

●コパイロットから自律型エージェントへ:アプリケーションをまたがる一連のタスクをAIが自動的に行う(ただし完全な自律型ではなく、部分的にタスクを担う支援的エージェントになるだろうとのこと。AIが特定の「職業」を完全に奪うのではなくその一部のタスクを自動化したり増幅するようになる
参考:『 【自律型AIエージェント】気づいたら仕事が終わっている究極の業務活用方法

エッジAI:LLMなどのAIモデルをPCなどの端末デバイス上で動作させる
参考:『 注目が集まるエッジAIとは?クラウドAIとの違いや活用事例

 

CES 2024で話題になった製品の一部を紹介します。

Rabbit R1アプリ不要のポケットAIコンパニオン):「 AI時代のiPhoneになるかもしれない」とのこと

Timekettleイヤホン型のリアルタイム翻訳機):40言語に対応

いろいろなAI搭載ロボットたち:愛犬の世話や見守り、プロジェクター搭載、庭仕事など(ロボットが発達すれば高度な知識労働以外の職業にもやがては影響が及ぶ