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2023.07.31

IPIニュースレター vol. 03:テクノロジーは学習やエンゲージメントにどう役立つのか?(2023/07/31)

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これまで教育へのテクノロジーの活用というと、PCやタブレット、その上で稼働するソフトウェアを導入するなどテクノロジーそれ自体が目的となっているように見受けられる場合もしばしばありました。しかし実際のところは、学習にテクノロジーを活用することにより、心理学の成果に基づいてエンゲージメントを高めたり、学習科学の成果に基づいて学習効果を高めたりするなど、アナログな方法では行いづらかったことを実現できます。
生成AIの使用も同様です。教える側にとって、「読書感想文を書きなさい」「◯◯についてまとめなさい」といった、従来のように漠然とした課題を生徒に与えるだけの方法は通用しなくなりました。だからと言ってAIの使用を禁止するやり方は、もはや現実的ではありません。生成AIの特徴を理解した上で適切に調整したAIシステムを使えば、個々の学習者の状況を逐次判断し、個々人に適したこれまでにない学習体験を与えることができるはずであり、その方法がさまざまに模索されています。

■Duolingoはテクノロジーを活用してどのように学習効果やエンゲージメントを高めているのか?

Learning how to help you learn: Introducing Birdbrain!』(DuolingoのBirdbrainは学習者を支援する方法を学習する by Duolingo)
How Duolingo’s AI Learns What You Need to Learn :The AI that powers the language-learning app today could disrupt education tomorrow』(DuolingoのAIは、学習者に何が必要かを学習: AIを活用した語学学習アプリが明日の教育に破壊的変化をもたらす by IEEE)

テクノロジーを活用した語学学習プラットフォームとして世界中で使われているDuolingoでは、以前から 学習を継続するため過去の学習履歴に基づいて通知で学習を促したり、時間をおいて 繰り返し復習させたり、キャラクターを使うなどゲーミフィケーションの要素を取り入れたりするなど、心理学や学習科学の研究成果を取り入れて学習効果を高めています。また、AIに関しても、機械学習モデルにより、特定の単語や概念をどの程度復習すればいいかを判断したり、練習問題の難易度レベルや現在の学習レベルに基づいてその後の学習方針を判断するなど、個々の学習者に合わせたアダプティブな学習が行えるようになっています。
練習問題の難易度、学習者の能力という2つの要素に基づいて、学習者が正解する確率をモデル化するこの方法は、他の科目にも適用可能です。

 

■『 How Much Can Duolingo Teach Us? The company’s founder, Luis von Ahn, believes that artificial intelligence is going to make computers better teachers than humans.』(Duolingo創設者のLuis von Ahn氏は、AIは最終的には人間よりもよい教師になると考えている by The New Yorker誌)

Duolingoでは2020年からGPT3を導入し、英語の問題の生成などに活用していたそうです。GPT4では、AIを相手にロールプレイするなど実際のコンテキストに従った学習が可能になったほか、学習者の誤りに関するレポートも生成されます。ロールプレイでは、その様子をAIがモニタリングし適切な会話が行われているかをモニタリングしフィードバックを与えることが可能です。
Duolingo創設者のLuis von Ahn氏は、AIは最終的には人間よりもよい教師になると考えており、今後は、こうした知見を活用して語学以外の分野にも取り組む予定だそうです。

 

■『 小学生の自由研究をチャットAIがお助け ベネッセが夏休みに無料提供 “社内ChatGPT”の知見生かす』(by ITmedia)

AIに課題を丸投げすることはできない。「読書感想文を書いて」と入力すると「読んでみて、自分なりの感想を書いてみましょう」といった答えが返ってくる。公序良俗に反する文章も記入を受け付けない。自由研究のテーマ決めや、進め方を決めるときの補助といった使い方を推奨している。

 

■『 Assigning AI: Seven Ways of Using AI in Class』(教育への生成AIの活用に日々取り組み、活発に情報発信しているペンシルバニア大学ウォートン校のEthan Mollick氏による記事)

生成AIを教育に活用する7つの方法:

1) AI家庭教師、2) コーチ、3) メンター、4) チームメイト(コラボレーション学習の相手として)、5) ツール、6) シミュレーター、7) 生徒(学んだ後の理解をチェックするため)

 

■『 How AI could empower any business』(Coursera創設者であり、AI研究者として著名なAndrew Ng氏によるTED Talk)

現在のAIシステムは、多くの資金や優秀なエンジニアを確保できる一部の組織が作っている大規模で汎用的なものだが、あと数年もすれば、個々の用途に応じた小規模かつ有用なAIシステムを誰もが作れるようになる(2022年9月)。

 

■『 Eric Schmidt: This is how AI will transform how science gets done』(AIは科学のやり方を大きく変化させる  by MIT Technology Review)

Google元CEOのエリック・シュミットによれば、最近のAIでは大規模言語モデル(LLM)ばかりが注目されているが、他にもさまざまなAIモデルが存在し、それによって科学がこれまでと全く異なるものになる可能性がある。たとえばNvidiaが構築した地球システムデータに基づく大規模なAIモデルは、これまでよりもはるかに高速かつ正確に気象予測を行うことができ、災害リスクの予測と軽減に役立つ。LLMを使って膨大な文献から要約を作成して仮説を立てる、AI搭載マシンを使って高速にサンプルを作成して実験を行うなど、調査、仮説、実験、分析、結論という科学的プロセスのそれぞれも大きく変化していく。

 

■『 マルクス・ガブリエル独占直撃:ChatGPTは落書き』(世界的哲学者マルクス・ガブリエル氏へのインタビュー)

生成AIはそれほどのゲームチェンジャーではない。AIが脅威だとか人間レベルの知性に近づいているとも思わない。真の知性ではない。よいテクノロジーが登場しただけ。議論すべきは、AIがインテリジェントかどうかではなく、AIが知能をモデル化する方法が、我々の思考プロセスの干渉となるのかどうかということ。AIを自律的行為主体として語るべきではない。AIが私たちの思考プロセスにどのように統合されるかを語るべき。

 

■『 前編:シン・ニホン 2023』(PIVOTによる動画)

安宅和人氏によれば、日本の勝ち筋は「物魂電才」(real + cyber)
人類が直面している2大課題は「地球との共存」と「人口減少」であり、もはやAIではない

 

■『 We Are Becoming A PowerSkills Economy』(HRテクノロジーのスペシャリストでありHR業界において世界的に有名なJosh Bersin氏による記事)

PowerSkillを備える企業が今後発展する。PowerSkillとは、テクニカルスキルを備える優秀な人たちを束ねることのできる高度なマネジメントスキル(ソフトスキル)のこと。変遷の激しいテクニカルスキルと違ってソフトスキルには普遍性がある