IPIニュースレター購読お申込み

2023.10.27

IPIニュースレター vol. 06:内発的モチベーションより自己効力感、AIの新潮流、プレスキリングとは?(2023/10/27)

Written by

学校に限らず、企業の研修でも、業務においても、学生や従業員のモチベーションの高さは大きな関心事です。一般には、人があらかじめ持ち合わせているモチベーション(内発的モチベーション)の高さが、その後のパフォーマンスの高さにつながると考えられており、たとえば新規採用者や新卒者の様子を観察してモチベーションに関する評価が行われたり、モチベーションさえ高めることができればさまざまな問題が解決するかのように考えている人もいます。

しかし最近の研究では、

事前のモチベーションの高さ(内発的モチベーション)は、
その後のパフォーマンスの高さには関連しない

ことが明らかになっています。

■内発的モチベーションよりも自己効力感が重要 参考記事1および
人は、自分の行動から得られた結果の良し悪しによって、その行動の良し悪しを判断します。だから、たとえば特定の学習項目に対するモチベーションは、それを学習した結果がよければ高まります。
特に、何かを学びはじめたり、取り組みはじめたばかりの場合、はじめは非常にやる気があっても、ちょっとしたことでつまずき、やる気をなくしてしまうことがあります。だから、初心者を指導する場合には、学んだこと、取り組んだことによるよい結果(よい成績、達成感など)を早い時期に経験できるように配慮することが重要です。はじめは自信がなく、モチベーションが低い場合であっても、少し取り組んでみた結果が良好で、「自分にはできる」という自己効力感を高めることができれば、その後の困難にも粘り強く取り組んでいくことができます。
何かに取り組むときには、その初期に、漠然としたモチベーションではなく、具体的対象に対する自己効力感(自分はそれをうまくやれるという感覚)を持たせるよう指導することが重要なのです。たとえば、はじめて何かに取り組むチームメンバーに対しては、確実に成功でき、しかも簡単すぎず、達成感も味わうことができるような、その人にとって適度な難しさのタスクを与え、失敗して傷つかないよう見守りつつ指導することができます。
しかし、大人数で行う研修などでは、誰がどのようなことでつまずくかに個別に対応することが難しく、自己効力感を持つどころが、取り残された感じをいだいてやる気をなくしてしまう人も出てくる場合もあるはずです。今後、AIを活用したパーソナルな学習が普及すれば、個々人の進歩に合わせ、モチベーションを高めたり、高いモチベーションを維持しつつ、個々人に適した難易度で学習をすすめていくことも可能になるでしょう。

 

■リスキル、アップスキルでは遅い。「プレ」スキリングが必要!
生成AIの出現によって、今後の私たちの仕事の変化がますます不透明になっています。AIによって私たちの仕事が奪われる可能性は低いものの、これからは、必要とされる仕事の変化が激しくなることが予想されます。AIによってなくなる仕事がある一方、そこから新たな仕事が出現します。
ManpowerGroupのチーフ・イノベーション・オフィサーであり、大学の研究者としてAIと仕事についての著作などもあるTomas Chamorro-Premuzic氏によれば、今や、

AIが人間に取って代わるのではなく、AIを使う人が使わない人にとって代わる

時代になったのです。氏は、このような時代には、「プレ」スキリング(事前にスキルを準備する)が必要であることを唱え、 そのための方法を提案しています。今後必要とされるスキルの詳細を事前に把握することは困難ですが、このプレスキリングとは、新たに必要とされるスキルを習得しやすくするスキルのことです。たとえば、先の見えない未来の状況に適応するには、学習能力、好奇心、レジリエンスなどのソフトスキルが、ハードスキル(プログラミング能力など)よりも重要となります。
これからの仕事がどうなっていくのか先の見えない時代にプレスキリングで備えるには、その人の経歴ではなく、その人の「ポテンシャル」(やろうと思えば何ができるか:what they could do)に注目し、それを育み、その人のポテンシャルに基づいて採用や昇進を決めます。
これからのリーダーに求められる役割は、従業員の能力やポテンシャルをフルに活かしつつ、その能力を開発することです。そのためには、データに基づくフィードバックを的確に伝え、改善を動機付けるようなインセンティブを与え、効率的で魅力的かつ効果的な能力開発プログラムを与えます。従業員の個々の強みを活かすだけでなく、新たな強みを開発する支援をするのです。リーダーは、その上で重要な役割を果たします。

 

■生成AIの活用は生産性を高める!  参考記事

ボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントを対象に行われた研究によれば、仕事にGPT4を使用したコンサルタントは、そうでないコンサルタントに比べ、コンサルティングに関連する18のすべてのタスクにおいて、仕事の質もスピードも大幅に向上しました。これはまさに、「AIが人間に取って代わるのではなく、AIを使わない人が使う人にとって代わられる」典型ともいえます。
現在のAIが得意とするのは、単純な自動化、機械化というより、むしろホワイトカラーが取り組んでいるような高度な判断力を必要とする仕事だと言われていますので、この研究はまさにそのことを示しているとも言えます。

◆参考資料:『 AI活用の本質は、匠の技やベテランの知恵の機械化
”実は、現在のAIの得意分野を簡単に言うと、「長年の経験の中で培った勘と知恵に基づく専門的な判断」なのです。”

この研究ではさらに、スキルの高いコンサルタントと、それほどでもないコンサルタントがGPT4を使って仕事をした結果も比較したところ、スキルレベルの高くないコンサルタントの方が、仕事のパフォーマンス向上率が高くなっていました。
また現在、コンサルティング以外のさまざまな分野についても生成AIを使用することの影響が研究されており、全般に、 スキルレベルの低い人のほうが、生成AIの使用の恩恵を受ける度合いが高くなっています

生成AIは、ビジネスパフォーマンスの全般的な底上げに役立つようです。

 

■『人工知能研究の新潮流2 ~基盤モデル・生成AIのインパクト~』 参考資料

これは、CRDS(国の科学技術イノベーション政策に関する調査、分析、提案を中立的な立場に立って行う組織)が、現在の「第3世代AI」の動向やその問題点、今後の「第4世代AI」、「信頼されるAI」の実現に向けて行われるべき取り組みについての提言をまとめた報告書であり、非常に充実した内容になっています。以下いくつかのポイントを記しますが、詳細は原文をご参照ください。

第4世代AIでは、現在のAIの問題点である信頼性の低さを克服する新たな原理・アーキテクチャーが求められる。
第3世代AIには、1) 学習に大量の教師データや計算資源が必要、2) 学習範囲外の状況に弱く、実世界の状況への臨機応変な対応ができない、3) パターン処理は強いが、意味理解・説明などの高次処理はできていない、といった問題点がある。
第4世代AIのアーキテクチャーでは、現在の深層学習のようなデータからボトムアップにルールやモデルを構築する帰納型の仕組みだけでなく、トップダウンに知識やルールを与え、状況や文脈(コンテキスト)に応じてそれらを組み合わせて解釈・推論するような演繹型の仕組みも密に取り込まれたものになる。これにより、教師データが大量になくとも演繹によって補うことでき(問題点1への対処)、学習範囲外のケースに対しても演繹によって対応可能になり(問題点2への対処)、意味理解・説明も演繹面から強化される(問題点3への対処)。

 

■孫正義氏による「まだChatGPTを使ってない人は人生を悔い改めた方がいい」発言が話題になりましたが、以下、日本における生成AIの使用状況に関して見つけた記事を掲載しておきます。