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2023.09.29

IPIニュースレター vol. 05:今すぐ実践!研修効果を劇的に高める驚きの手法とは?(2023/09/29)

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企業では職場のパフォーマンス向上を願って日々多くの研修が提供されています。しかし一般的には、 研修で学んだことの適用率は低く、平均して20%程度であると言われています。適用率が低いことにはさまざまな要因があり、適用率を高めるための方法についても多くが語られています。たとえば、 この記事にあるように、研修で学んだことの適用に影響する要因は多数あります。

しかし、ちょっとした工夫をするだけで、研修の適用率を大幅に高めることができるようです。

■行動を促す具体的なきっかけ(キュー/プロンプト)を用意する

一般に人の行動は、誰かにその行動を命じられたり、その行動の有用性を聞いたりするなど、そのための先行条件(antecedent)をきっかけとして生じます。企業の研修であれば、そこで学ぶことの意義が先行条件として強調され、そこで得た知識やスキルを職場に戻って適用することが期待されます。
しかし、特定の行動の意義や価値を理解し、その行動をする能力を備えているからといって人は必ずしもその行動をとるとはかぎりません。人の行動が生じるには、その行動の意義、価値といった抽象的なことだけでなく、 もっと具体的なプロンプト(きっかけ/キュー)が必要なのです。

このプロンプトは、行動の意義や価値といった抽象的なものではなく、アラームやリマインダーといった具体的なものです。このほか、行うべき特定の行動に先行して行う、何か別の具体的行動を決めておく方法もあります(「朝歯を磨いたら、特定の行動をとる」など、 新たな行動を既存行動の連鎖の中に組み入れる)。

■行動の実行は具体的にスケジュール設定する 英語記事

上記の具体的なプロンプト設定が重要であることを端的に示す研究があります。
この研究では、以下の3つのグループについて、あらかじめ決めた運動をどの程度実行できるかを記録しました。グループ1:コントロールグループ。運動を行った記録のみをつける
グループ2:運動を行うことの意義について講義を受けた上で、運動を行った記録をつける
グループ3:運動を行うことの意義について講義を受けた上で、運動を行った記録をつける。さらに、どのような行動を、いつ、どこで行うかを明確にさせるその結果、グループ1と2では、35-38%の人が週1回以上運動を実行しました。つまり運動を行うことの意義を聞いても、その行動にはあまり影響しませんでした。しかしグループ3では、90%以上が週1回以上運動を実行したのです。
グループ3がグループ1と2と異なるのは、どのような運動を、いつ、どこで行うかを具体的にスケジュールさせた点であり、それが大きな効果をもたらしたのです。一般に、企業の研修では、講義の内容が盛りだくさんで、時間が足りなくなりがちです。今後の目標設定まで含めたレッスンプランになっている場合であっても、研修の後半は急いでレクチャーし、「目標設定は、後で各自行ってください」となってしまうこともしばしばです。しかし、研修の最後に、その研修から得たことを、自分が今後、いつどのように職場で適用するかを考え、その適用のためのスケジュールを研修時間内に決めておくことが重要なのです。すべてのコンテンツをカバーできなくても、そこまでで学んだことの適用を促すスケジュール設定のための時間をとったほうが、全体としての研修適用率は高まるのかもしれません。そのための一番簡単な方法は、研修中に具体的な目標(何を、いつ、どこで行うか)を決めさせ、それを個々人のスケジュール表に登録させることです。そうすれば、「スケジュール表からリマインダーが届いたら(If~)、何を、いつ、しかじかの場所で行う(Then~)」を実行することができます。もちろん、このリマインダーは、その行動が生じやすい時間と環境に当人がいるときに送られるように設定しておく必要があります。

■『行動に失敗したときの対策も決めておく』 英語記事

上記の実験の例では、単に健康のための運動を行うという、比較的簡単な行動が目標となっています。しかし実際の研修で学ぶことはもっと複雑で難しいので、それをスケジュールして実行したとしても、うまくいかない場合も考えられます。そのような場合も、この「もし失敗したら(If~)、何を、いつ、どのように行うか(Then~)」をスケジュールする方法が活用できます。つまりたとえば、「研修適用の目標をスケジュール設定し、実行してもうまくいかなかった場合には、代替策として~のように調整し、もう一度実施のスケジュールを設定し、さらに実行する(以後うまくいくまで繰り返す)」のように決めておくことができます。

■『行うべき行動は小さく簡単で成功しやすいものにする』 英語記事

人は、行動を促す先行条件(antecedent)やプロンプトにしたがって行動(behavior)し、その結果(consequence)が当人にとってよいものであれば、その行動をまた繰り返します( 参考記事)。だから、よい結果をもたらすことができるよう、その行動が行えるよう学習したり、行動のための環境を整えたりしておくことも重要です。また、抽象的で大きな目標は失敗しやすいものなので、失敗したことで再度チャレンジする気がなくなる場合もあります。そうならないようにするには、設定する目標を比較的小さく簡単なものにしておき、必ずよい結果(当初意図したことが成功する)が得られるようにしておくといいようです。そして次第に難しくしていきます。

■『アカウンタビリティパートナーを活用する』

上記のようにスケジュールしたとしても、実際には忙しかったり、行う内容が難しいので行わなかったりする場合も考えられます。そのような場合に備えて、誰か仲間とペアになって、互いの行動の実行を観察し合ったり、自分の実践を報告するパートナー( アカウンタビリティパートナー)を依頼する方法があります。一人で決めたことは実行しなくても誰にもわかりませんが、パートナーに実行を宣言すれば、行動が促されます。
たとえば、研修中に参加者同士でペアを決めておけば、研修後の目標実行に関して、互いに報告し合ったり、相談し合ったりすることができます( この動画では、上記の「If ~、Then~」に加え、このようにパートナーを活用することの効果が語られています。

◆参考:パートナーを活用する仕組み

たとえば このツールは、特定の時間に何かのタスクを行うことを登録し、誰かとペアになって本当にそのタスクを行っていることをカメラで観察し合うことにより実践を促し、達成できればたたえ合う、という仕組みになっているそうです。